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 法律では、結婚する2人のどちらかが相手の姓(名字)に合わせ、夫婦が同じ姓になります。望めば結婚後もそれぞれの姓でいられる「選択的夫婦別姓」は久しく検討課題となっています。姓をどうするかは、生き方に大きくかかわります。個人、家族、社会生活を考えたとき、どんな姓が望ましいですか? さらに意見を聞きました。

 ■名前はパーソナルなもの 秀島徹さん(印章業「はんのひでしま」)

 本業ははんこのデザイナー。認め印の在庫は約10万本あり、「日本一」と言われます。日本人の姓の種類は十数万以上とされ、そのかなりをカバーしていると思います。

 父からはんこ屋を継いだのは40年余り前。一度用意した姓は、売れた後もまた在庫を準備します。全国に数人~数家族しかいないような珍しい姓も置いています。人気漫画「鬼滅の刃」に出てくる「竈門(かまど)」「産屋敷(うぶやしき)」といったはんこも以前からあります。

 多くの姓の由来には歴史や地理が関係し、明治にできた新しい姓も多い。本家から分家ができる際に、読み方は同じで別の字にしたり、漢字の字体を変えたり。それらが、様々な姓ができた要因と考えられます。

 希少な姓が次第に減っています。姓を新たにつくるのは無理。文化の多様性という意味では惜しい。ただ少子化で長男・長女のみの家庭が増えているから、やむを得ないですね。事情が似ているのは中国。あの人口で姓は4千種類程度とされ、一人っ子政策の影響で少子化が進み、姓も減っているようです。

 好きなアイドルの姓のはんこを買い求める人もいる。「結婚できる可能性はないけど、せめてお守り代わりにしたい」と。そういう人もいるくらいだから、姓で一体感を持ちたいという気持ちは分かります。

 しかし、姓を含めて名前はパーソナルなもの。選択的夫婦別姓を希望する人がいるのも当然で、自然だと思いますね。(聞き手・山本晃一)

 ■別姓、話し合った最適な形 牧野紗弥さん(モデル)

 法律婚から事実婚に切り替え別姓にする準備を進めています。結婚11年。夫の姓を名乗ることにずっと違和感がありました。仕事は旧姓ですが、重要な書類ほど夫の姓を書かなければならない。出産した時に夫や私の両親が、夫側の家の孫という認識で話していたことも疑問でした。姓を変えたことで夫と対等ではない、所有されている感じになっているのではと思うようになりました。

 夫に「姓を変えるってどういうことか考えたことある?」と聞くと、「一回もない」と。衝撃を受けましたが、想像力を働かせて、と伝えるようになった。10歳、9歳、5歳の子がいます。私はジェンダーギャップを「知らない」という環境を家庭から変えたい、「自立し、しなやかな意思を持ち行動する」母でありたいと、家族に別姓を提案しました。

 子どもたちは当初、「法律上は離婚となる」ことへの不安を口にしました。生活スタイルは変わらないこと、「ママはアイデンティティーである旧姓を名乗りたい」こと、戸籍の仕組みも繰り返し説明しました。

 上の2人には自分で姓を選んでもらいます。判断する力も、権利もある。照れ屋の9歳長男が「牧野って漢字で書けるようになったよ」と言った時はかわいくて笑いました。牧野も名乗ることができると理解したんだと思いました。

 姓が違えば家族の絆が薄れると思う方もいます。でも、自分の考える家族の絆はほかとは違うかもしれない。家族で話し合った結果なら、それがその家族に合う最適な形です。

 家族は個の集合体。自分の考えは共有しますが、押しつけはしません。子どもには自分の足で歩いていける大人になってほしいと願っています。(聞き手・伊木緑)

 ■選べるほうが生きやすい よねはらうさこさん(イラストレーター)

 ツイッターにマンガ「選択的夫婦別姓について、現行の制度でも違う名字になる家族がいることを忘れないでほしい話」を投稿したら、「いいね!」が約2万件、つきました。

 きっかけは、選択的別姓に反対する国会議員が「祖父母と親、子や孫が別々の姓になり、混乱しかねない」「家族の絆がなくなる」などと主張するのを目にしたことです。そういう家族は普通にいます。

 海外や日本在住の外国人の方との交流も多く、マンガではよく紹介します。外国のまねということではなく、多角的な見方は参考になることも多いはず。いろんな国のやり方から学び、日本に住む私たちにより良い仕組みになればと思います。

 強く反対する人たちは、変化を恐れているのかもしれません。

 もちろん「結婚して相手の姓を名乗りたい」という人は男女を問わずいるでしょうし、それで幸せなら良いのでは。ただ、誰もが「典型的」な生き方をできるわけではなく、そうしなくても認められる社会になってほしい。LGBTQなど家族のあり方も多様。別姓、通称使用など姓の選択も自由なほうが生きやすい社会になると思います。(聞き手・山本晃一)

 ■法案提出し議論がフェア 小池信行さん(元法制審幹事・弁護士)

 法務大臣の諮問機関である法制審議会は、1991年から結婚や家族などに関するさまざまな民法の規定の見直しを始めました。選択的夫婦別氏制も検討課題の一つです。法制審では、導入に積極的な意見が圧倒的に多数でした。

 各省庁の法案は、閣議決定を経て国会に提出する前に、与党の審査を受けるという不文律があります。法制審の幹事役であった私は、延べ200人近くの自民党議員を回って説明しました。すると、反対する意見が大多数だったのです。

 理由は「家族の絆を弱める」「通称使用を認めれば足りる」というのが主なものでした。「夫婦同姓」というルールは、日本社会の醇風美俗(じゅんぷうびぞく)であって、侵すべからざる原則なのだという趣旨の意見も少なからずありました。結局、反対派の壁は厚く、了承を得ることができないまま、法務省は法案の国会提出を断念したのでした。

 昨年末に政府が男女共同参画基本計画を策定した際にも、自民党内では強い反対意見が続出したと報道で知りました。私が経験した状況と全く変わっていないのですね。しかし、これでは「なぜ反対なのか」という理由が国民の前に明らかにされないまま、法改正作業がストップした状況が続くことになります。オープンな議論にするためには、まず民法改正法案を国会に提出し、法務委員会などで賛否両論の審議を重ねることです。そうやって国民の理解を深めた上で形成される世論によって採否を決めるのが、フェアではないかと思います。(聞き手・田中聡子)

 ■旧姓使用の拡充が現実的 八木秀次さん(麗沢大学教授・憲法学)

 選択的夫婦別姓に反対する理由は二つあります。一つは、民法を改正しなくても、旧姓使用を拡充すれば多くが解決できるということ。もう一つは、現在の戸籍制度の下では、導入が難しいということです。

 現在は、結婚すると親の戸籍から出て新たに夫婦の戸籍を作り、子どもたちもそこに記載されます。婚姻届を出す際に戸籍筆頭者を決め、家族が共通の姓を名乗るのです。「1戸籍1氏(姓)」ですね。これが別姓になると、「1戸籍2氏(姓)」になり、家族共通の姓がなくなります。姓が「ファミリーネーム」から「個人名」に変わってしまうということです。姓の性格の変更は、同姓を選んだ夫婦にも波及し、国民全体の問題になります。別姓を選びたい人だけの問題ではありません。今の戸籍の仕組みを前提とする限り、法制化は困難なのです。

 片方が姓を変えることに不都合があることは、反対派も理解しています。法制審が答申した25年前と違って、今の賛成派の多くが、戸籍の廃止を求める思想から別姓を主張しているわけでもないでしょう。

 ただ、家名存続を希望する配偶者が別姓を選んでも、子どもの姓をバラバラにしなければ、次の世代まで続きません。きょうだいで姓をバラバラにすることは、国民の大半には受け入れ難いことです。

 今の戸籍でも身分事項欄には旧姓が載っています。それを基に、住民票にも旧姓を併記できるようになりました。不毛な対立をやめて、旧姓が使えない場面を改善していくことが現実的な選択肢だと思います。

 (聞き手・杉原里美)

 ◇フォーラムアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 ●自分が誰かわからなくなった

 母子家庭で育ち、母親が再婚し、中学生の途中で名字が変わった。私自身はなにも変わっていないのになんだか理不尽だなぁと思った記憶がある。私も離婚を経験し、名字が変わるたびに面倒な手続きが多いし、自分がいったい誰なのか、わからなくなっている。名字は自分で選択させてほしい。(愛知県・50代女性)

 ●妻の苦労を目の当たり

 妻が改姓をする際、面倒な事務手続きをしているのを目の当たりにした。仕事のため手伝うこともできなかったことを後悔している。同姓にせよというのに、女性のキャリアが消えたり、手続きが大変だったりというデメリットを放置しているのは納得できない。(埼玉県・30代男性)

 ●珍しい名字だがこだわりなし

 私の名字はどちらかと言えば珍しいほう。できればこれを残したいが、結婚する相手も珍しい名字なら、自分の名字を優先したいとは思いません。同姓にも別姓にもデメリットがある。片方の姓を選ぶか別姓か、となるぐらいなら、2人で新しい名字を作るのはどうだろうかと思う。(鹿児島県・20代女性)

 ●仕事の実績、改姓で一から

 結婚で姓が変わった側です。会社を経営していますが、登記上の代表者名を戸籍と同じ姓に変えなければなりませんでした。今の時代、名前が変わるのは実績を手放すも同然。クライアントが名前で検索をして実績を確認し、仕事を依頼するケースが多いからです。姓を変えればまた一から実績を積み上げ直す苦労を味わいます。支持母体以外の人間の不利益を顧みようとしない政治はうんざり。(東京都・40代女性)

 ●別姓の希望わかるが、子に混乱

 結婚するなら同じ姓であるべきだと思います。一体感は重要だし、夫婦別姓は子供に混乱を与えると思う。旧姓を名乗りたい人の気持ちもわかりますが、今や旧姓使用も当たり前に受け入れられている。口座名義やパスポート手続きなど手間はあるかもしれませんが、犯罪に利用されないため必要。(広島県・30代男性)

 ●LGBT当事者、別姓を望む

 いわゆるLGBT当事者で、既存の制度では夫婦になることはできないのですが、今後もし人権・平等への理解が進んで日本でも同性婚が制度化されたら、私の場合は仕事上の不利益を鑑みて当然、選択的夫婦別姓制度を望むことになるだろうと思います。一緒の姓にしたい人はそうすればよいので、そうしたくない人がしなくて済む選択肢をください。(京都府・30代男性)

 ◇「アリの一穴になる」。選択的夫婦別姓の導入に反対する人から聞く言葉です。今の戸籍制度を前提にした改正案でも、いったん別姓を認めれば、いずれ戸籍が破壊されかねないというのです。

 「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局の井田奈穂さんは、地方議会に陳情に行き、何人かの自民党議員から「夫婦別姓は女系天皇への議論につながるからできない」と言われたそうです。夫側の姓を継承することと天皇制を重ね合わせているのでしょう。井田さんは「別姓を望む本人の困りごととは全く関係ないのに」とこぼします。

 1990年代から取材してきて、市民感覚と国会議員とのずれが以前より広がったと感じています。世論調査では、特に若い世代で賛成が増えています。アンケートには別姓が選べないため結婚をとりやめたという人も。論点をずらさず誠実に向き合うことが求められます。(杉原里美)

 ◇来週31日は「感染抑止に罰則、どう思いますか?」を掲載します。

 ◇アンケート「感染抑止に罰則、どう思いますか?」「脱炭素化、あなたは?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施中です。

 

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