(社説)NHK値下げ 政治の影に疑念が残る

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 NHKが唱える「自主自律」とはいったい何なのか。こんな迷走ぶりで、市民の真の理解を得られると考えているのか。疑問が次々とわいてくる。

 執行部がまとめた向こう3年間の経営計画が、13日のNHK経営委員会で了承された。衛星放送やラジオのチャンネル数の削減など、昨年8月の素案にあった業務のスリム化に加えて、23年度に受信料を引き下げることを急きょ打ち出した。

 東京・渋谷の放送センターの建て替え計画の見直しや、剰余金の取り崩しなどで700億円を捻出して充てるという。

 剰余金は今年度末で1450億円にのぼる見込みだ。非常時への備えを考えても多すぎるのは明らかで、視聴者に還元する方向性自体は妥当といえる。

 それでも釈然としないのは、決定に至る過程に政治の圧力を明らかに感じるからだ。視聴者・国民よりも政権の顔色をうかがうことにきゅうきゅうとするNHKの体質も垣間見える。

 武田良太総務相は、コロナ下での家計負担を軽くするべきだとして、受信料の値下げを再三迫ってきた。これに対し前田晃伸会長は、今期の計画に盛りこむことには慎重な姿勢だった。地上波衛星受信料を一本化するなどの検討を進め、受信料制度を見直すのが先で、「物事には順番がある」「値下げできる環境を整えるのが私の役割」と語っていた。

 それが一転した。これまでの方針は何だったのか。「環境」はいつ、どう整えられたのか。納得できる説明はない。

 おかしな話はまだある。経営計画では言及していなかった値下げ幅について、20日になって突然、副会長(放送総局長)が「衛星契約の1割をめざす」と具体的な数字を示した。菅首相が施政方針演説で「月額で1割を超える思い切った引き下げ」を表明した2日後のことだ。

 繰り返すが社説は値下げに異を唱えているわけではない。しかしNHKは新年度から、これまでに例のない規模の事業の縮小に踏み出そうとしている。影響を受けるのは国民一人ひとりであり、私たちの社会だ。

 これからの時代にNHKはどんな役割を担い、そのために必要な費用を、だれが、どのように負担するのか。その議論を深めないまま、受信料を人気取りの道具に使おうとしているとしか見えない政権にも、それに追従するNHKにも、不信の念を抱かざるを得ない。

 通常国会にはNHKの新年度予算案に加え、今後の経営のあり方に密接にかかわる放送法改正案が提出される。目先の利害や思惑にとらわれず、丁寧で視野の広い審議を求めたい。

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