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 国会では現在、新型コロナウイルスの感染対策を強化するため、罰則を導入する法改正案が審議されています。海外には外出・営業制限などに違反した場合に罰則を科す国がありますが、日本では自主的な協力を前提とし、感染者や飲食店などへの罰則はありませんでした。懲役など刑事罰を含めた法改正検討が始まったことを受け、罰則は必要か、21~26日に意見を聞きました。

 ■実情即した補償と一体で 木村清さん・株式会社喜代村(すしざんまい)社長

 すしチェーンの当社は、国・自治体から営業時間の短縮を要請されている11都府県の54店舗では午後8時まで、残る3店舗も午後10時まで時短営業中です。国民の安全第一であることは言うまでもありません。ただ、要請に従わなかった飲食店に罰則を科すなら、従った業者への実情に応じた補償もぜひ検討して頂きたいです。

 当社の売上額は、1月初めの時点でコロナ前の85%減です。外食業は、通常の売り上げの2割減でも損益分岐点を超え、赤字になると言われます。その影響は甚大です。

 今回の法案には、事業者への「財政上の措置」もするとなっていますが、飲食店は、規模も売上高もまちまちです。ですから、公平性のために、実際の売上高とその減益幅に応じた支援を検討して頂きたい。同じ飲食店でも、家賃が月30万円のところもあれば、月200万円以上のところもあります。

 政府は、それでは支給の手続きが煩雑になる、と言うかもしれません。しかし、私たちは売り上げに基づき、しっかりと税務申告をしています。個別に支給額を算定することがそんなに難しいことでしょうか。国の財源に限りがあることも承知しています。ならば、支給額に、一定の上限を定めてもらってもいいです。

 東京都など自治体が支給することになっている時短協力金(1店舗あたり1日6万円)も、いまだに支給の申請すらできていません。自治体側から「ちょっと待ってほしい」と言われているからです。困っている飲食業者はかなり多いと思います。

 国家の「有事」は、戦争だけに限りません。まさに緊急事態の宣言が出ているのですから、今が有事です。行政は有事の組織態勢になっているのでしょうか。

 先日、菅義偉首相に「外食業界の現状などをお聞きしたい」と呼ばれ、業界の苦境を訴えました。現場の状況を当事者から直接聞く姿勢はありがたく、すばらしいことだと思います。菅首相には、有事の態勢をつくって、行政を機動的に動かすリーダーシップを期待します。(聞き手・稲垣直人)

 ■経路調査、避けられる恐れ 尾島俊之さん、元保健所長・浜松医科大教授(公衆衛生学)

 保健所による疫学調査には、感染者や濃厚接触者を把握して外出をやめてもらう「感染拡大の防止」という機能がまずあります。そして「さかのぼり調査」と言いますが、感染経路を調べて感染パターンを解明し、予防に生かす機能も重要です。

 国内ではいま急速に新型コロナの感染が広がり、保健所が調査対象を絞らざるをえない状況が起きています。だからこそ、いま行われている調査には事実をちゃんと話してほしい、という気持ちです。

 それでも私は、罰則の導入には課題があると思います。

 大きな理由は、かえって調査を避ける人が増える恐れがある点です。職場や学校、行きつけのお店に迷惑をかけたくない。それが罰則対象になれば、では「初めから保健所に連絡しないでおこう」となる可能性はありませんか? 感染が把握できなくなるだけでなく、相談したいのに保健所を頼れない人も増えてしまうかもしれません。

 また保健所の業務量が大幅に増える懸念もあります。聞き取り調査の録音やそのデータの整理・保存が必要になると負担は増えます。また、証拠書類の準備や検討会議などの業務も発生します。本来の感染対策の時間を奪いかねません。「罰則を適用しなくてけしからん」と保健所を責めないでほしいです。

 保健所の調査が広く受け入れられるためには、正直に話しても地域・職場・学校などで責められたり差別されたりしない環境を整えることが必要です。差別や偏見こそが「知られたくない」という気持ちにつながり、感染を拡大する、という共通認識を社会で持つことが先決です。

 また国は、感染者情報をオンラインで管理するシステム「HER―SYS(ハーシス)」をつくりましたが、現場での情報共有に使いにくいなど、保健所の業務効率化にはつながっていません。罰則以外のやるべきことがいろいろある。そう私は思います。(聞き手・藤田さつき)

 ■刑事罰見送り、過料で合意 コロナ関連法改正、政府案は――

 政府は22日、新型コロナウイルス感染症対応の感染症法と特別措置法などの改正案を閣議決定し、国会に提出しました。営業時間短縮の命令違反や入院拒否などに罰則を設けたのが特徴です。

 改正感染症法の政府案では、入院拒否に「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」を科す刑事罰を新設。感染経路を調べる疫学調査を拒んだ場合には「50万円以下の罰金」を科すとしていました。

 また、改正特措法の政府案は、緊急事態宣言の前から罰則を科せる「まん延防止等重点措置」を創設。時短などの命令に違反すると、行政罰である過料を重点措置時なら「30万円以下」、緊急事態宣言時なら「50万円以下」科せるとしました。

 野党は刑事罰創設を強く批判。重点措置がどんな状況なら適用されるのかを法律ではなく政令で決めるとしていることに、「私権制限を伴う権限をフリーハンドで政府に与える恐れがある」と指摘しています。

 自民党は早期成立をめざし、立憲民主党と修正協議を開始。28日に刑事罰の削除などで合意しました。

 入院拒否は「50万円以下」、疫学調査拒否は「30万円以下」の過料に。時短命令などの違反への過料は重点措置時が「20万円以下」、緊急事態宣言時が「30万円以下」に減額されました。改正案は修正され、2月3日にも成立する見込みです。(笹井継夫)

 ■新型コロナ関連の改正法案の罰則、政府案→自民・立憲による修正

 【感染症法】

 ▽入院措置を拒んだ場合……

 1年以下の懲役または100万円以下の罰金→50万円以下の過料

 ▽積極的疫学調査を拒んだ場合……

 50万円以下の罰金→30万円以下の過料

 【特別措置法】

 ▽時短などの命令に違反すると……

 (緊急事態宣言時)

 50万円以下の過料→30万円以下の過料

 (まん延防止等重点措置時)

 30万円以下の過料→20万円以下の過料

 ■改正議論、平時にすべきだ 福田充さん・日本大教授(危機管理学)

 災害やテロ、感染症など危機への対処に際しては、安全・安心を確保するために、行政権力が人権や自由をどこまで制限できるか。そのバランスを考えなければなりません。

 こうした議論が危機のさなかになされると、世論は、私権を厳しく制限する方向に大きくぶれがちです。私は罰則をめぐる法改正の議論は、平時にすべきだと考えます。

 民主主義国家では、政府が出した提案について国民の間で十分に議論し、国会でも慎重に審議しなければなりません。政府は、2月初めにも新型コロナ特措法や感染症法の改正案を成立させるとしており、あまりにも拙速です。

 入院拒否者に刑事罰がつけば、様々な事情から入院を望まない人の中には、検査すら受けようとしないケースも出てくるでしょう。また、休業や営業時間短縮に応じない飲食店などに行政罰を与える場合、膨大な数の店の営業実態を公平に調べなければなりません。自治体職員にいまそれが可能だとは思えません。

 昨年、緊急事態宣言下で営業している店などに、市民が嫌がらせをする「自粛警察」が問題になりました。法律で罰則がつけば、それが支えとなって、「犯罪」を公然と告発する動きが、ますます強まることを懸念します。

 これまでの政府の新型コロナ対策は、ことごとく後手となり、失敗しています。今回も、医師会や知事らの強い要請に追い詰められて、緊急事態宣言を出した形です。政府は自らの失敗を罰則付与によって取り繕おうとしているのでは、と感じる市民も少なくないのではないでしょうか。(聞き手・桜井泉)

 ■「方針に深く憂慮」現場の医学会も

 コロナ感染者の治療にあたる医療の国内最大の学術団体「日本医学会連合」は14日、「患者・感染者への入院強制や検査義務化等に刑事罰もしくは罰則を設ける方針が示されていることに深く憂慮した」として緊急声明を出しました。

 声明では「かつて結核・ハンセン病では患者・感染者の強制収容が法的になされ、蔓延(まんえん)防止の名目のもと、科学的根拠が乏しいにもかかわらず、著しい人権侵害が行われてきた」と指摘。感染症法は「歴史的反省のうえに成立した経緯があることを深く認識する必要がある」として、入院強制や検査・情報提供の義務に罰則を設けない▽入院受け入れの施設間・地域間格差を無くす▽感染者と関係者への偏見・差別を防止する法的規制を行う、などを求めています。

 ◇アンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 ●時短要請より感染対策指導

 医療従事者です。罰則規定を設けることで差別を生む可能性が高いため、罰則ではなく行政の介入程度に止めるべきだと考えます。素人に見よう見まねで対策させることは無理です。時短要請ではなく、感染症の専門家のいない病院、介護施設、企業、学校、飲食店などに感染対策指導することのほうが先決。そのためには厚労省の医官や、自衛隊の衛生隊員を動員しても良いのでは。市中病院や保健所に感染対策指導をも求めるのは酷ではないでしょうか。(神奈川県・30代女性)

 ●時短に効果、罰則は必要

 罰則によって感染が広がらないという明確な根拠はない。しかしながら、営業時間短縮は感染拡大の速度を落としていることは明確なので罰則は必要。(神奈川県・50代男性)

 ●まずは医療を立て直して

 入院したくてもできない人がたくさんいるのに入院拒否で罰則なんてバカげている。医療体制の立て直しや無症状や軽症者の隔離体制を強化するべきだ。飲食店の状況を考えずに一律の協力金では、不足する事業者が出るのは当然で、会社や従業員を守るために時短営業するわけにはいかない飲食店もあるでしょう。罰則の導入が感染防止につながるとは思えません。(神奈川県・40代男性)

 ●感染者を非難する人にも罰則を

 ここまで感染が拡大すると対策をしていても完全に防ぐのは難しいでしょう。感染した方々を非難する人にも罰則を設けるべきです。退職や転居を強いられた例もあるようです。感染経路の解明を妨げていると感じます。(兵庫県・40代女性)

 ●罰則なきルールは無意味

 罰則のない法やルールなど全く無意味だ。緊急事態宣言などの日本の感染対策は、しょせんはただのお願い。必ずしも従う必要はない。本気で感染対策をするなら、もはや自粛ではなく禁止にしないといけない状況になっている。今から導入しても遅すぎるぐらいだ。(福岡県・20代男性)

 ●罰則より安心できる生活を

 感染した、感染させた人の中にも自分を責めてしまい、苦しい思いをしている方が多くいると思います。自殺者も増えています。誰もがいつ感染してもおかしくないこの状況で、速やかに導入するべきなのは罰則ではなく安心して生活を続けられる十分な補償です。(埼玉県・20代女性)

 ●入院できない家庭事情も

 ひとり親家庭や要介護者のいる家庭など、感染者が入院してしまうと家庭が立ち行かなくなる場合もある。特に乳幼児がいる親は、分離し強制入院した場合の子供の心理的負荷は大きいと思う。(広島県・30代女性)

 ◇懲役刑などの刑事罰と行政罰を導入する動きを受け、21~26日にフォーラムアンケートを実施しました。保健所の疫学調査拒否や虚偽回答に対する刑事罰をどう考えるかについても質問しました。「科すべきでない」が約7割を占めたのに対し、「科すべきだ」と「新型コロナウイルスに関して科すべきだ」も合わせて約3割にのぼりました。

 ◇来週2月7日は「脱炭素化、あなたは?」を掲載します。https://www.asahi.com/opinion/forum/でアンケートを実施中です。

 ◇ご意見やご提案をasahi_forum@asahi.comメールするへお寄せください。

 

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