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 民主主義の土台をゆるがす許し難い所業だ。

 昨年行われた大村秀章愛知県知事に対する解職請求(リコール)で、提出された署名43万5千筆の約83%に無効の疑いがあると県選管が発表した。同一筆跡とみられるものや、選挙人名簿に登録されていない人の署名が膨大にあったという。

 数の多さや内容に照らし、一部のミスではなく組織的な不正があったとみるのが自然だ。詳しい経緯と責任の所在を明らかにしなければならない。

 解職請求は地方自治法で認められた有権者の権利だ。重い手続きであるがゆえに、署名を偽造すれば3年以下の懲役や罰金などの制裁を受ける。民意を捏造(ねつぞう)する行為に厳しく臨むのは当然で、運動にかかわる者にはその自覚が求められる。

 ところが署名集めのための政治団体を設立した美容外科経営の高須克弥氏や、事務局長を務めた田中孝博元県議は、4日の会見で「ありえない数字」「不正を指示したり黙認したりするわけがない」とし、さらには「妨害があった」などと説得力を欠く物言いに終始した。

 無責任極まりない。「名前が勝手に使われた」との声は昨年から多く出ていた。その時点で運動員に事情を聴くなどして、何があったのか調査に乗り出してしかるべきではないか。

 署名集めに関しては法律に詳細な規定がある。現場で取り組む人たちに、それを周知させるための努力を尽くしたのか。ルールを順守して有効な署名を地道に積み上げようという覚悟はどこまであったのか。根源的な疑問がわいてくる。

 解職請求のきっかけは、表現の自由をめぐって大きな論争を巻き起こした一昨年の国際芸術祭・あいちトリエンナーレだった。展示内容を問題視した高須氏らが、実行委員会の会長である大村氏を追及するとして署名集めに乗りだした。

 これに同調し、運動を持ち上げた政治家の責任も問われる。

 大村氏と対立関係にあった河村たかし名古屋市長は、自ら街頭で署名を集めた。今になって「僕も被害者」などと言っているが、それで理解を得られると思っているのだろうか。

 解職請求にエールを送っていた吉村洋文大阪府知事も「真相が解明されるべきだ」と人ごとのような発言をするだけだ。田中事務局長は、吉村氏が副代表を務める日本維新の会から次期衆院選への立候補を予定している。どうけじめをつけるのか。

 県選管は刑事告発も視野に入れている。当事者が解明に動かないなら司直の手を借りるしかない。無軌道な運動の末路をしっかり見届ける必要がある。

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