(明日へのLesson)第3週:クエスチョン 出題形式の問題点を考える 大学入学共通テストから

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 30年続いた大学入試センター試験は「知識偏重」と批判され、「思考力・判断力・表現力を重視」との掛け声のもと、「大学入学共通テスト」に衣替えすることになった。英語民間試験併用の延期、国語・数学の記述式問題の延期などを経て今年1月に初めて実施された共通テスト(第1日程)の数学の問題を、学習塾「SEG」(東京都新宿区)の大澤裕一講師に解説してもらった。

 ■解を導く力を測るべきなのに SEG講師・大澤裕一さん

 数学では、センター試験にはなかった会話形式の問題や日常のやり取りに絡めた問題が出題された。運営側としては、このような出題により思考力や判断力を測定している、ということなのだろう。果たしてこれは本当か。会話形式や日常のやり取りで問題文はセンター試験より増えた。だが増えたのは数学とは関係のない部分だった。

 会話形式の問題では「太郎と花子」が登場し、2人の会話が挿入されている。しかし、これらを削除しても問題として成立する部分が多かった。このような試験だと、「無駄に長い文章を読み解く」という、数学とは異なる力が必要となってしまう。試行調査でもそのような出題があったため、多くの受験生は、数学の力とは無関係な「長文を迅速に読む訓練」を行って共通テストに臨んだことであろう。センター試験でさえ「時間が足りなかった」と漏らす受験生が多かったが、この傾向がますます強くなったと思う。

 また、今回の共通テストでは「勘で正解できる」部分がいくつかあった。

 掲載の問題は、数学2・数学Bの第5問の最後の部分である。解答は選択式で、スには0(OB1ベクトルとOB2ベクトルの内積が0であることは、この二つのベクトルが直交することを意味する)、セには「正方形」が入る。これらの結果をきちんと導くためには、ある程度の計算・考察が必要である。しかし、正十二面体の見取り図から答えを予想して答えることもできる。また正十二面体に関するこの性質を「知っていた人」は難なく答えを書けたことであろう。

 この第5問では、スとセの問いの前に、導入部分としてア~シの12個の解答欄がある。ベクトルを用いて正五角形の特徴を考える方法などを、ヒントを与えつつ計算・考察させ、受験者の数学的な力を試している。だが、きちんと考察して結果を導いた人と、勘や知識で答えた人が同じ評価となってしまう。これは、数学の試験としては不適切である(勘の良さを測る問題になってしまっている)。本問を出題するならば、「この四角形が正方形であることを証明せよ」といった記述式で出題すべきであり、そうすればこの問題は解決する。

 大学入試は「大学における学習・研究を行うための能力」が十分にあるかどうかを判定するために実施している。加えて、共通テストでは「高等学校のカリキュラムの基本理解」の度合いを測定している。会話形式や日常のやり取りの問題は、先の二つの目的のどちらにも合わないし、問題の作成も大変になったのではないか。その結果、問題に対する精査が不十分となり、結果的に勘で当たる問題がいくつか出題されてしまったのではないか。もちろん、各大学が独自に実施する試験で「受け入れたい学生像」に基づいて凝った出題をすることは適切と思うが、共通テストでは不適切だ。

 共通テストの数学の問題は、無駄な長文・設定を極力排し、科目の理解を直接的に測定できるようなシンプルなものが望ましい。この点について言えば、センター試験のほうが成功していたと思う。

 私は共通テストについて、受験生にこのように言っている。「共通テストに対する最大の対策は、対策をしないこと」。まずは、科目固有の基本事項をしっかり理解することが重要である。共通テスト独自の形式に慣れるのはそのあとで良い。

 英語民間試験併用の延期、国語・数学の記述式問題の延期は、草の根運動の結果である。共通テストの中身についても、あるべき姿を多くの人に提言して頂くことで、適切な試験に変容することを切に願う。(寄稿)

 ■ゲーム開発にベクトル必須

 コロナ禍による「巣ごもり需要」も追い風に、ゲーム市場が拡大している。キャラクターが画面内を自由に動き回るようなゲーム制作には、今回の問題に登場したベクトルの考え方が必須だ。

 東京都内のプログラマー、深町卓史さん(47)は、ユニティという専用開発ソフトを使っている。「車が向きを変えたり、ほかの車と衝突したりする動きは、ベクトルの計算で実現している。ユニティには3次元空間の動きを扱う豊富なツールが準備されている」と言う。

 ただし、より複雑な動きをさせる場合は準備されたツールだけでは間に合わず、プログラマーが自ら計算手順を組み込まねばならない。走る車を斜め後方から追いかける動きなどは、ベクトルの内積を計算する。「その車を回転させたり姿勢制御したりするときは、オイラー角という考え方を使うなど、ゲーム開発と数学は強く結びついている」と深町さんは言う。

 (伊藤隆太郎)