(社説)首相長男接待 放送行政の信頼揺らぐ

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 特定の業者との深い関係が、公平公正であるべき行政の判断に影響してはいないか。そんな疑念を抱かせる由々しき事態だ。しかも、時の首相の身内が籍を置く会社である。徹底した実態の解明なくして、信頼の回復はありえない。

 放送行政を所管する総務省幹部が、菅首相の長男が勤務する放送関連会社「東北新社」から接待を受けた際、これまでの説明に反し、放送事業をめぐるやりとりがあったことが明らかになった。音声データの一部を文春オンラインが公開した。

 秋本芳徳・情報流通行政局長はこれまで、会食は「東北出身者らの懇談」であり、東北新社やその子会社のスターチャンネルの事業やBS、CSが話題になった「記憶はない」と国会で答弁してきた。

 しかし、音声データには、首相の長男ら東北新社側が、BS事業などに言及したことが記録されていた。秋本氏はきのうになって「発言はあったのだろうと受けとめている」と軌道修正したが、首相の長男らが「(音声は)自分だと思う」と認めたことで、言い逃れができなくなったのが実態ではないか。

 そもそも、このメンバーが集まって、放送事業に関する話が一切出ないというのは極めて不自然だ。総務省は接待を受けた4人を聴取した結果として、東北新社の事業が話題になったことはないと説明してきたが、形だけのずさんな調査だったと言わざるを得ない。

 週刊文春が報じた接待は昨年10~12月の4件だが、総務省の調べでは、他にも8件が確認された。16年以降4回の会食を重ねた秋本氏は、他の放送事業者とはこれほど頻繁に食事はしていないと明言した。副大臣、大臣を歴任し、総務省に強い影響力を持つ首相の身内であることが、「特別扱い」の背景にあるのではないか。

 国家公務員倫理法は、職員は「国民全体の奉仕者」だとして、職務上知り得た情報について「国民の一部に対してのみ有利な取扱いをする」ことを戒めている。権力者への忖度(そんたく)から、この「倫理原則」を曲げることがあってはならない。

 立て続けに3回の会食があった昨年末は、総務省がスターチャンネルの認定を更新した時期に重なる。秋本氏は親会社の東北新社は「利害関係者」ではないと思っていたというが、常識に反する釈明というほかない。

 武田良太総務相は「放送行政がゆがめられたことは全くない」と断言した。週明けに公表される総務省の調査結果が、「結論ありき」の、通り一遍の内容に終われば、放送行政への不信を深めるだけだろう。

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