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 コロナ禍で広がる生活困窮に「最終的には生活保護という仕組みも」と応じた菅首相の国会答弁をきっかけに、生活保護のありようが問われている。

 雇用や住居の確保など、様々な人の状況に対応できる重層的な支援を考えることは大切だ。そのうえで、そうした施策の足らざる部分を補い、全ての人を守る最後のセーフティーネット(安全網)が生活保護である。

 問題は、必要な人が誰でも使える仕組みになっていないことだ。利用を妨げる「壁」をなくさねばならない。

 生活保護の申請は、緊急事態宣言が出た昨年4月に急増したが、その後は前年を下回る月が多い。生活保護基準以下の収入で暮らす人のうち制度を利用するのは約2割との推計もある。

 保護の受給に否定的な意識が根強いことや、申請のハードルの高さが、かねて指摘されてきた。厚生労働省は昨年来、車や店舗などの資産があっても制度を利用できるとする通知を全国の自治体に出し、田村厚労相も「生活保護を受けることは国民の権利。迷わず申請を」と呼びかけてきた。

 だが、さらなる改善を求める声がある。申請した人の親族に、援助できないか福祉事務所が問い合わせる「扶養照会」の手続きだ。「親族に知られたくない」と申請をためらう人が少なくないとして、困窮者の支援団体などが運用の見直しを求める署名を厚労省に提出した。

 照会の根拠となっているのは、民法上の扶養義務者の扶養が保護に優先すると定めた生活保護法の規定だ。ただし、これは仕送りなどを受けた場合に、その分だけ保護費を減らすという意味とされ、保護を受ける上での要件ではない。

 扶養を求める範囲が、同居していない兄弟姉妹や祖父母まで及ぶのも日本独特のものだ。2017年の厚労省の調査では、扶養照会をした約3・8万件のうち金銭的な援助に結びついたのは約600件にとどまる。

 厚労省は、20年間音信不通など明らかに交流が断絶している場合や、扶養が期待できない場合は、照会不要とする通知を出したが、与党からも「厳し過ぎる」との声が出ている。

 支援団体は、申請者の意に反する照会をしないことなどを求めている。こうした声に耳を傾け、前向きに検討すべきだ。

 誰でも困窮に直面しうることがコロナ禍であらわになった。その時にすぐに支援を受けられ、不要になれば脱却する「出入り」しやすい仕組みこそ、生活保護の本来の姿である。

 原点に立ち返り、社会の意識や制度のありようを改める契機としたい。

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