(社説)デジタル教科書 導入に向け環境整えよ

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 文部科学省の有識者会議が、小中学生向けデジタル教科書の「本格的な導入」を求める中間提言をまとめた。時期を小学校の教科書が改訂される24年度と明記し、「紙」からの全面切り替え、紙との併用など、いくつかの選択肢を示している。

 すでに実験的にデジタル版を使っている学校からは、文字や図表、写真を拡大できるだけでなく、動画や音声の利用も可能になり、子どもたちの理解が深まるとの報告がされている。

 コロナ禍による長期休校を経験し、学びを確保する一助として、全国の小中学生の大半に情報端末が配られた。デジタル機材の特長を生かした教育の実践は時代の流れであり、国は前向きに取り組んでほしい。

 ただしクリアすべき課題は少なくない。なかでも、デジタル化によって教育格差が発生・拡大することのないよう、万全の手を打つ必要がある。

 たとえば、紙の教科書は国費で無料で配られるが、いまの制度ではデジタル版の費用は自治体が負担することになる。財政力の違いで新しい教材を活用できるところとできないところが生まれ、学力に差がつくようなことはあってはならない。

 自宅の通信環境も心配だ。配布された情報端末は安価で容量が小さく、デジタル版や関連教材を使うにはネットに接続する必要がある。自宅での学習も当然想定されており、家計の苦しい家庭には通信費が重くのしかかることになりかねない。

 憲法は、すべての国民に「ひとしく教育を受ける権利」を保障している。その趣旨をふまえた対策を講じることが「本格的な導入」の前提条件だ。

 ほかにも、デジタル版を使いこなすための教員研修の充実や養成カリキュラムの見直しは不可欠だし、視力をはじめとする子どもの健康への影響にも注意を払う必要がある。

 文科省は全国の小5~中3の半数程度を対象に、1教科ずつデジタル版を使ってもらう大規模な実証研究を行う。活用した時間、健康への影響、通信料金などを確認しつつ、成績やアンケート結果を見て、効果が高い学年・教科を探る考えだ。

 24年度をめざすとなれば、データの分析を経て、導入方法、教科書検定のあり方、格差を生まないための対策などを短期間で決め、予算も確保しなければならない。実施ありきで進んだ末に、迷走・破綻(はたん)した大学入試改革の轍(てつ)を踏んではならない。

 デジタル教科書は、学習効果を高め、子どもの成長を促す手段のひとつであって、導入それ自体が目的ではない。この当たり前のことを忘れずに、着実に施策を進めてもらいたい。

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