(社説)コロナとWHO 政治を排し体制強化を

[PR]

 感染症は世界共通の脅威である。その解明のためには、一切の政治性を排し、科学に立脚した調査が尽くされるべきだ。

 新型コロナの起源をさぐるため、世界保健機関(WHO)が中国の武漢でおこなった調査の報告書を公表した。

 ウイルスがどこから来たかが分かれば、性質や特徴を詳しくつかめ、対策づくりに役立つ。国際社会が一致協力して進めるべき喫緊の作業である。

 ただ、解明はそう簡単ではない。今回の調査も発生源の解明には至らず、多くのなぞを残す結果に終わった。

 報告書によると、もともとウイルスを持っていた野生動物から別の動物を介して広がった可能性が高いという。ただ、その動物は特定できていない。

 トランプ前米政権は、武漢にある研究所からウイルスが流出したとの見方を示していたが、報告書はこれをほぼ退けた。

 一方、冷凍食品に付着して武漢に持ち込まれたとする中国の主張については、可能性を排除しなかった。

 その内容をめぐり、日米欧など14カ国が懸念を表明する共同声明を出した。元データや検体が十分に提供されなかったとしており、その事実はWHOの事務局長も認めた。

 国際機関による調査の中立性に疑義が生じているのは、憂慮すべき事態である。

 そもそもコロナとWHOをめぐっては、米国と中国の対立が影を落としてきた。WHOを中国寄りだと批判する米国が、脱退を表明する騒ぎもあった。この報告書も、そうした影響もあって公表が遅れたとされる。

 世界的な危機のなかで大国がコロナの解明を覇権争いの具にするなら、論外の愚行だ。

 中国当局は、コロナをめぐる情報を国際機関と十分に共有すべきである。自らの隠蔽(いんぺい)体質に厳しい目が注がれていることを自覚しなければならない。

 米国も、中国批判にいそしむのではなく、WHOを筆頭に国際的な保健衛生体制を強化する取り組みを始めるべきだ。

 大国の思惑に左右されない、普遍的な人道主義に基づく堅固な体制が必要だ。とりわけ感染症対策は、これからの世界が抱える長期的な課題であり、WHOなどの機能の抜本改革に踏み込まねばならない。

 WHOと欧州連合などは、今後の感染症対策に各国が効果的に協力することをめざし、新たな「パンデミック条約」を制定するよう呼びかけている。

 感染症問題は、どんな国も単独では解決できない。コロナ禍から学んだ国際連帯のあるべき教訓を、実践で示す時である。日本もその先頭に立つべきだ。