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 輸入の増加を抑える緊急輸入制限措置(セーフガード)の米国産牛肉に対する発動基準の見直し協議を、日米両政府が始めた。関税引き上げの基準数量(今年度は24万7千トン)を増やす方向で調整が進む見通しだ。

 輸入量が基準を上回ると、昨年度の場合、通常は25・8%の関税率を最低30日間、38・5%に引き上げることになっている。昨年1月に発効した日米貿易協定で今の仕組みが導入され、今年3月中旬に早速発動された。

 米国産牛肉は、牛丼や焼き肉などに幅広く使われている。低関税での輸入増は国内農家にとっては懸念材料だが、消費者には朗報である。

 協定の付属書には、セーフガードが発動されれば基準を緩める協議を行うことが明記されている。一定の見直しは受け入れざるをえまい。ただ、忘れてならないのは、米国産牛肉にかかる厳しいセーフガードは、米国が自ら環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱したことの代償だ、という点だ。

 セーフガードがめったに発動されなくなれば、米国の主要農産品である牛肉の輸出増への制約が実質的に失われよう。米国のTPP復帰を促すため、セーフガードの発動基準の緩和は、限定的にとどめるべきだ。

 中国の存在感が増す環太平洋の経済圏で、高水準の財やサービスの自由化や法の支配を守るには、日米が中心となってルール作りを進めることが望ましい。友好国との連携を重視するバイデン政権のもとでも、米国のTPP復帰は遠そうだが、多国間の枠組みに積極的に関与するよう求める必要がある。

 試金石は、トランプ前政権が軽視した世界貿易機関(WTO)のルールを重視する姿勢に変わるかどうかだ。その点で日米貿易協定は問題がある。

 WTOルールでは、特定の国や地域の間で協定を結ぶ場合、貿易額の9割程度の関税を撤廃する必要がある。ところが日米協定では、現時点では米国の関税撤廃率は遠く及ばない。「撤廃は今後の交渉次第」とされた自動車関連がまとまらなければ、ルール違反となろう。

 WTOは透明性を確保するため、二国間協定を結んだら、直ちに通報するよう義務づけている。しかし発効から1年以上たつのに、日米は通報していない。両国で調整し、速やかに義務を果たさねばならない。

 今回のセーフガード協議は、バイデン政権との通商交渉の皮切りである。牛肉関税の技術的課題を話し合うだけでなく、米国の通商政策を、TPP復帰やWTO重視に転換させるきっかけにすることが求められる。

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