(世界発2021)韓国、止まらない超少子化 出生率、3年連続「1」割り込む=訂正・おわびあり

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 韓国が「超少子化」に揺れている。昨年、1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す合計特殊出生率が0・84を記録した。1を割り込むのは3年連続で、経済協力開発機構OECD)加盟37カ国では韓国だけ。日本の1・36(2019年)よりはるかに低い。(ソウル=神谷毅)

 ■ソウルは0・64、「戦時」状態

 出生率0・64と都市別で最低のソウル。韓国初の小児科専門病院として有名な小花(ソファ)児童病院が、看板から「児童」の文字を消したのは約2年前のことだ。

 「生き残るためですよ」。金圭彦(キムギュオン)院長(69)は振り返った。1970~90年代の経済成長期。ソウル駅前という一等地に位置し、全国から患者が訪れた。病院は自己所有の6階建てビル全体を占め、1階受付は診察を待つ親子であふれた。

 今、1階にはカフェなどが入居し、病院は2、3階に間借りする。91年に約32万人だった患者数は2018年に約7万人まで減った。経営難を打開するためにビルを売却。大人の診察も受け入れるため19年に病院名から伝統のある「児童」を削り、内科を新設したのだった。

 韓国の人口問題の専門家は、一般的に出生率1以下は戦争や大災害の最中でない限りありえないと指摘する。0・64のソウルは「戦時」状態といえる。

 原因の一つは経済的な問題。韓国の多くの両親たちの願いは子どもをソウルの大学に送ること。小学校から複数の塾を掛け持ちし、塾代の負担は重い。大学に入っても安定した大企業や公務員への就職競争は激しい。大学も企業もソウルがすべてで、人口の半分近くがソウルと首都圏に住み、地価は高騰を続ける。ソウルのマンションの平均価格は約10億8100万ウォン(約1億円)にもなる。

 イラストレーター、申ハヌルさん(33)は「教育にはお金がかかるし、住宅価格は高すぎる。出産が考えられないなら、そもそも結婚しなくていいと思うのは普通だ」と話す。彼女のような若者の間で今、「非婚世」というポッドキャストが人気という。恋愛や田舎暮らしなど「結婚しなくても幸せ」という生活を紹介する音声番組だ。

 「結婚しないぞと決意するのが自分だけだと心もとない。でも『非婚世』を聴いていると結婚しなくても幸せになれると思える」と申さん。両親や祖父母の世代から「結婚しなければ」「もう結婚適齢期だ」という言葉を聞くたびに怒りがこみあげてきた。「いい相手がいれば選択の結果として結婚はするかもしれない。でも、子どもは産まない。仕事を通して得る成長が大事だし、余裕のある暮らしを楽しみたいから」

 ■コロナで拍車、婚姻数10%減

 韓国の「超少子化」は、新型コロナウイルスの影響で拍車がかかるとの指摘がある。婚外子が少ない韓国では、婚姻数がその後の出生数を占う指標になるが、20年の婚姻数は前年より約10%減少した。これが早くも出生数に響いており、今年1~3月は前年比で約8%減少している。

 韓国児童病院協会の朴洋東(パクヤンドン)会長は「新型コロナ少子化対策の効果を相殺する『死亡宣告』をしたといっていい。感染拡大が止まらないなかで新しい対策を行っても出産増にはつながらない」と語る。今年の出生率は0・75まで落ち込むとみる。

 韓国政府は06年から少子化対策に約224兆ウォン(約21兆円)を投じたが、歯止めはかかっていない。既婚者への保育費の支援や出産奨励金といった短期的な政策が主だったためだ。

 どのような政策に効果があるのか。そのヒントが韓国中部の世宗(セジョン)市(人口34万)にある。

 街ではソウルとは全く違う光景に出くわした。幼稚園前では迎えの母親の多くがベビーカーを押したり下の子を抱っこしたり。2人以上の子を持つ親が多いようだ。

 20年の出生率は1・28とソウルの倍。12年に行政機能の一部を移転してできた街で、幼稚園や塾など暮らしの基盤が充実し始め、公務員が結婚して定住するようになった。小学3年と1年、3歳の息子がいる禹恵貞(ウヘジョン)さん(43)は4年前に引っ越してきた。以前は別の街で私立幼稚園に1人月約80万ウォン(約7万6千円)で通っていたが、ここの幼稚園は公立で無料だ。

 「周りには2人目、3人目を産みたいという母親が多い」と禹さん。子どもが通う幼稚園の園長、全俊玉(チョンジュンオク)さんは「教育費の負担や競争社会のストレスがソウルと比べて少ない。子を産み育てたい意思を持つ人は、環境さえ整えば一歩踏み出せることを世宗は示している」と語る。

 ただ、受験競争自体はなくならず、ソウルにある大学や職場に人が集まる構造もそう簡単に変わらない。ソウル大学人口政策研究センター長のチョ永台(チョヨンテ)教授は「地方で大学を出て働くことも人生の選択の一つと考えられるよう、ソウルへの一極集中を緩和することが、少子化対策の根本だといえる」と指摘する。

 <訂正して、おわびします>

 ▼21日付国際面「韓国 止まらない超少子化」の記事につく「韓国の合計特殊出生率の推移」のグラフで、単位として「%」とあるのは誤りでした。合計特殊出生率は、1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数に相当し、正しくは単位をつけません。グラフ作成の際に誤りました。