人間の本質、骨太の物語に マンガ大賞「ランド」 第25回手塚治虫文化賞

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 マンガ文化に大きな足跡を残した手塚治虫の業績を記念する第25回手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の受賞作が決まった。「マンガ大賞」は山下和美さんの「ランド」(講談社)、新生賞は「葬送のフリーレン」(小学館)の山田鐘人(かねひと)さん(原作)とアベツカサさん(作画)、短編賞は野原広子さんの「消えたママ友」(KADOKAWA)と「妻が口をきいてくれません」(集英社)、特別賞は吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)さんの「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」(集英社)が選ばれた。

 贈呈式は6月3日に東京・築地の朝日新聞東京本社で。マンガ大賞には正賞のブロンズ像と副賞200万円、新生賞、短編賞、特別賞にはそれぞれブロンズ像と副賞100万円を贈る。小原篤

 ■現代の多様な問題、描ききる

 選考対象は昨年刊行・発表された作品。最も優れた作品に贈るマンガ大賞は、社外選考委員が持ち点15点(1作につき最高5点)で投票した1次選考の上位9作と、専門家や書店員の推薦1位の作品を合わせ、ウェブ会議方式の最終選考会で議論した。

 マンガ大賞は長大な物語を見事に完結させた「鬼滅の刃」「約束のネバーランド」「ランド」の競り合いに。昨年に続き1次選考と推薦で1位の「鬼滅」を推す声が強かったが、議論の過程で「ランド」が、「現代の抱える多様なテーマを抱えながら高らかな人間賛歌となっている」(中条)と支持を集めた。「鬼滅」は、社会現象を生み出した功績を理由として朝日新聞社が特別賞に決めた。

 斬新な表現に贈る新生賞は、「冒険の終わりから物語が始まるのがユニーク」(高橋)と評価された「葬送のフリーレン」の作者に。短編賞は「絵柄と内容のギャップも、オチも強烈」(南)として、野原広子さんの2作で意見がまとまった。

 ■マンガ大賞「ランド」 山下和美さん

 四方に巨大な神像が立つ「この世」と呼ばれる村で育った少女・杏(あん)は、禁忌を破って山の向こうの「あの世」を見てしまう。世界が大きく揺らぎ、人々がうろたえ争う中、杏と仲間は新しい未来に向かって進む。

 山下和美さんは1980年に少女マンガ誌でデビューし、青年誌へ移った。1話完結形式のヒット作「天才 柳沢教授の生活」「不思議な少年」から「ランド」で新境地を開き、全11巻の長大な物語を完結させた。

 「連載当初は人気が出なくて『3巻で終わらせて』と言われた。1巻のラストで読者が驚いたのか、意外に売れたおかげで生き延びた。最後まで描ききることができてよかったです」

 大災害、放射性廃棄物、格差、老い……現代の我々が直面する問題を骨太な物語に織り込んだ。未知のウイルス出現で都市を封鎖する事態を描き、現実を先取りしてしまった。「びっくりしました。ニュースを見て『何これ?』って」

 手塚治虫文化賞の候補になったと聞いた時は「手塚作品のテーマに近いところがあったからかな」と思ったという。ただし「ヒューマニズム」ではない。「虚無。あるいは『無』かな。科学や文明が進んでもそうでなくても、人間の本質は同じ。人間ってしょせんこうだよねという醒(さ)めた目が、手塚治虫さんという人にはあったと思います」

 ■新生賞 山田鐘人さん(原作)、アベツカサさん(作画) 「葬送のフリーレン」 冒険終えてからの旅

 週刊少年サンデー連載中の「葬送のフリーレン」は、長命の種族である魔法使いフリーレンがかつて魔王を倒した戦いの跡をたどり旅をする物語。

 原作担当の山田鐘人さんは2009年にサンデー「まんがカレッジ」入選、主な作品に「ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア」など。「派手な物語ではありませんが、たくさんの人に楽しんでもらえるよう今後も精進します」

 作画担当のアベツカサさんは17年、週刊少年サンデーS増刊でデビューした。「この作品は私が絵を描いていく上での人生の指針を気付かせてくれた。そんな気がします」

 ■短編賞「消えたママ友」「妻が口をきいてくれません」 野原広子さん こじれた心、深くえぐる

 保育園の「ママ友」の人間関係が、その1人の失踪を機にきしんでいく「消えたママ友」。妻が夫との会話をやめた事態をそれぞれの視点から描く「妻が口をきいてくれません」。複雑にこじれた心を各1巻の長さで深くえぐった。

 野原広子さんは「娘が学校に行きません」(2013年刊)でデビュー。「幼かった頃『鉄腕アトム』を読んでワクワクし、子育て中はアトムの歌を子守歌にしていました。この賞で人生3回目のアトム。私の人生、アトムに励まされているな~って思いました」

 ■特別賞「鬼滅の刃」 吾峠呼世晴さん 大ヒットで社会現象に

 鬼と人の壮絶な戦いを描いた「鬼滅の刃」は、単行本全23巻が累計で1億部を超す(電子版含む)。昨秋公開の映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は歴代興行収入1位となり、4月25日現在397・8億円まで伸ばしている(興行通信社調べ)。テレビアニメ第2期も年内に放送が始まる。

 吾峠呼世晴さんにとって、2016年に始めた初の連載が社会現象と呼ぶべきメガヒットとなった。「応援して下さった皆様、出版に関わって下さった全ての方々、アニメを制作して下さった全ての方々に深く感謝申し上げます」

 ■1次選考結果(5位まで)

(1)鬼滅の刃吾峠呼世晴集英社)=12点(秋本5、里中4、高橋3)※関係者推薦1位

(1)約束のネバーランド(原作/白井カイウ、作画/出水ぽすか、集英社)=12点(南5、秋本4、里中3)

(3)かしこくて勇気ある子ども(山本美希、リイド社)=10点(桜庭5、矢部5)

(4)葬送のフリーレン(原作/山田鐘人、作画/アベツカサ、小学館)=7点(桜庭4、高橋3)

(5)青野くんに触りたいから死にたい(椎名うみ、講談社)=5点(桜庭3、南2)

(5)呪術廻戦(かいせん)(芥見下々〈あくたみげげ〉、集英社)=5点(高橋5)

(5)薔薇(ばら)はシュラバで生まれる【70年代少女漫画アシスタント奮闘記】(笹生那実、イースト・プレス)=5点(トミヤマ5)

(5)ペリリュー ―楽園のゲルニカ―(武田一義、原案協力/平塚柾緒〈まさお〉〈太平洋戦争研究会〉、白泉社)=5点(里中5)

(5)ランド(山下和美講談社)=5点(中条5)

 ■社外選考委員

 秋本治(漫画家)

 桜庭一樹(小説家)

 里中満智子(マンガ家)

 高橋みなみ(タレント)

 中条省平(学習院大学フランス語圏文化学科教授)

 トミヤマユキコ(ライター・東北芸術工科大学講師)

 南信長(マンガ解説者)

 矢部太郎(芸人・漫画家)

 ※敬称略、50音順

 ◆里中満智子さん、中条省平さん、矢部太郎さんをゲストに迎えた記者イベント「白熱の最終選考会を振り返る!」をネットで公開します。6月25日午前9時から2カ月限定。朝日新聞デジタルの会員であればどなたでも視聴できます。QRコードから申し込みできます。視聴後のアンケートに回答いただいた方の中から抽選で25人に、記念小冊子と記念ピンバッジをプレゼントします。