(社説)五輪とコロナ 冷静な目で現実見る時

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 「あなたのエールが東京2020大会の力になります」。東京五輪パラリンピック組織委員会のホームページはそう呼びかける。だがエールの送りようがないのが現実ではないか。

 コロナ対策の一環として、選手やコーチ向けの行動規範の改訂版が公表された。

 ▽出国前96時間以内に2回、入国後は毎日、感染の有無を検査する▽移動は専用車を使い、行き来は競技場、練習場、宿泊施設のみとする▽活動計画書を提出させる▽違反したら出場させない――など、それ自体は専門家の意見を踏まえた厳しいものになっている。問題はこれにどう実効性を持たせるかだ。

 選手だけで1万人超、別の規範に従う役員・関係者も加えると、その数倍もの人が世界から集まる。対応は容易でなく、結局は一人ひとりの認識と協力に頼らざるを得ない。選手らには入国直後から練習を認めるなどの特別措置がとられるだけに、逸脱があれば大会総体に厳しい批判が向けられよう。

 月内に決めるはずだった国内観客の取り扱いは先送りとなった。スポーツイベントの規制を参考に6月に決定するという。

 これも理解に苦しむ。観客の有無や規模が不明のままで、医療看護体制をどうやって構築・準備するつもりなのか。

 東京などにまん延防止等重点措置の適用が決まった今月9日に、組織委が日本看護協会に看護師500人の派遣を求めていたことがわかった。その根拠や「1日最大で医師300人、看護師400人」という今年2月時点での政府答弁との関係などについて、説明は一切ない。

 こんなやり方で同意を取りつけられるはずがない。組織委は「地域医療に悪影響を与えないのが大前提だ」というが、国民の生命・健康よりも五輪が優先という発想で動いている。そう受け止められてもやむを得ない要請ではないか。

 その医療体制や情報共有のあり方をめぐって、丸川珠代五輪相と小池百合子都知事がやり合う光景も見られた。以前も財政負担問題で不協和音を響かせ、国民をあきれさせた二人だ。

 開催する側がそろってこんなありさまで、コロナ禍に苦しむ社会にエールを求めても、それは無理というものだ。

 五輪開催の可否について発言を控えてきた政府の分科会の尾身茂会長が、28日の衆院厚生労働委員会で「感染レベルや医療の逼迫(ひっぱく)状況を踏まえて、議論をしっかりやるべき時期にきている」と述べ、注目を集めた。

 「開催は決まっている。問題はどう開催するかだ」。そんな言い分はもはや通らない。冷静な目で現実に向き合う時だ。

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