(社説)バイデン演説 「前進」どう実現するか

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 格差のない社会をめざす理念は高らかに語られた。それをどう実現するか。野心的な施策を進める指導力だけでなく、説明と対話を尽くす丁寧な調整力が問われている。

 米国のバイデン大統領が初の施政方針演説をした。「米国は再び前進する」として最も力説したのは、低中所得層の暮らしを底上げする決意である。

 富裕層に増税し、約200兆円を育児や教育などの支援に回す長期的な計画を発表した。コロナ下の家計への直接支援や、インフラ投資などの巨額の経済政策も打ち出している。

 グローバル化による産業構造の変化に取り残された人びとの怒りが語られて久しい。トランプ現象の背景としても指摘された「貧困の連鎖」を断ち、社会の公正さを取り戻す意義は十分理解できる。

 ただ、レーガン政権の80年代から強まった自由競争重視の路線を変えるのは容易ではない。「大きな政府」へとかじを切り、「富の分配」を一気に変革しようとすれば、強い摩擦は避けられないだろう。

 巨額の財政支出はかえって経済格差を広げないかと、懸念する声が与党民主党内にもある。バイデン氏はかつて議会で培った経験を生かし、根気強く理解を広げねばなるまい。

 野党共和党は反発を強めている。新政策に厳しい目を注ぐのは当然の役割だが、社会の分断をこれ以上深めぬよう理性的な論戦を挑んでもらいたい。

 バイデン氏は就任時に「米国の結束」を求めたが、この間、溝はむしろ広がったともいわれる。共和党支持層で、大統領の正当性を認めるのは約3割という調査結果もある。

 連邦議会を群衆が襲撃した事件の記憶は新しい。米国の民主主義が直面している危機を、与野党がともに直視すべきだ。世界の専制主義と対峙(たいじ)するには、まず足元の政争を収束させる必要がある。

 国際社会から見れば、今回のバイデン氏の演説は、外交への言及が物足りなかった。中国への対抗を強調し、同盟重視を確認したものの、全体的には米国内の立て直しを最優先する姿勢を鮮明にした。

 米製品の調達を増やす「バイ・アメリカン」を掲げた一方、米国を含む世界の繁栄につながる自由貿易の原則には触れずじまいだった。その点は、トランプ前政権から続く「内向き」志向のようにも見える。

 バイデン氏は、気候危機やコロナ禍などを念頭に、「現代の問題は、どの国も一国では解決できない」とも述べた。ならば世界を悩ませる米国第一主義から、明確に決別するべきだ。

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