(社説)女性研究者 その力 引き出す社会に

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 太陽の研究で将来を嘱望された増田皓子(ひろこ)さんは、育児との両立に悩んだ末、研究者を辞め、今は中学・高校の非常勤講師として働く。ある微生物学者は、出産後、以前のように仕事に時間を割けなくなり、常勤からパートタイムに降格された――。

 連載企画「『リケジョ』がなくなる日」が紹介した女性研究者の厳しい現実だ。

 人文・社会科学系を含む女性研究者は約15万9千人で、全体に占める割合は17%。比率は増えてはきたが、英国の39%、米国の34%などに水をあけられ、主要国で最も低い。

 育児や家事、介護は女性の役目だとする旧態依然の考えが、全ての女性に重くのしかかる。家族、同僚、上司、勤務先が、そろって古い価値観から抜け出さなければ、男女平等も女性活躍も絵に描いた餅だ。

 加えて女性研究者を追い詰めるのが近年の政策だ。「選択と集中」の名のもと、短期間で成果を出すことをめざすプロジェクトに多額の予算がつき、それに携わるポストの多くが任期付きとなった。若手は在任中に結果を示すことを求められる。重圧は大きく、夫婦で研究職の場合、妻にかかる負荷がさらに増す傾向がある。

 伸び盛りで、子育て世代でもある研究者を取り巻く状況を改善するには、この構造にメスを入れる必要がある。

 育児や介護にあたる人たちへの支援策の充実、勤務スタイルの多様化、職場環境の整備、大学をはじめとする研究機関の人事政策の見直しなど、やるべきことは山積している。

 たとえば、出産や育児による中断から研究に復帰する人をサポートする国の制度があるが、予算は年間9億3千万円で、応募者に対する採用率は25%前後にとどまる。「研究とライフイベントとの両立支援」を唱えるのなら、まずこうした即効性のある施策を拡充し、あわせて、制度や意識の改革に腰を据えて取り組むべきだ。

 どの仕事もそうだが、とりわけ研究や開発の現場では、多様な視点とそこから生まれる新しい発想が、発見やイノベーションの創出につながる。女性研究者が働きやすい環境を得て、定着・活躍することは、現場全体に刺激を与え、人類共有の知の拡大に貢献するに違いない。

 近年、世界で注目される論文のうち「日本発」の割合が落ち込むなど、自然科学を中心に研究力の低下が深刻な状況になっている。政策のゆがみと、女性に矛盾を押しつけることで成り立っている社会を根底から正す。それは、結果として日本の研究力や産業競争力の向上にもつながるはずだ。

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