(社説)入管法改正案 採決強行は許されない

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 政府与党は、この国で生きる外国人を尊厳ある存在としてとらえているのだろうか。そんな根本的な疑問がわいてくる。

 出入国管理法改正案をめぐる対応である。与党は衆院法務委員会での採決を急ぐ構えをみせる。入管行政が抱える様々な問題を放置して審議を打ち切ることは、到底許されない。

 当局の人権感覚を疑わせる事例として注目されているのが、3月に名古屋入管局で起きたスリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)の死亡事件とその後の措置だ。

 留学ビザで来日後、学費が払えなくなって退学。昨年8月に収容され、体調が悪化した。

 入管庁は4月に中間報告を公表したが、容体を懸念した医師が当局に「仮放免」を勧めた事実を記載していなかったことなどが、法案審議の過程で判明した。同居していたスリランカ人男性に暴力を振るわれ、警察に相談したのが収容のきっかけだったのに、DV被害者向けの手続きに沿った処遇をしなかった不備も発覚した。

 野党は病状の経過を記録した映像の開示を求めているが、上川陽子法相は「保安上の問題」などを理由に応じていない。また最終報告を外部識者とともにまとめるというが、その氏名を秘匿しており、客観性や公平性が担保されているのか検証できないという、今どきあり得ない対応をとっている。

 そもそも今回の法案提出のきっかけは、ナイジェリア人男性が長期収容に抗議するハンストの末、19年に餓死した事件だ。経緯を追うなかで入管の貧弱な医療体制も浮き彫りになった。

 政府は長期収容を解消する策として、▽難民認定申請中は故国に送還しないとする規定を改め、3回目以降の申請については可能にする▽収容に代えて、家族や支援者の監督下で生活できる選択肢を設ける――などを法案に盛り込んだ。後者は一見前進のようだが、収容か否かは入管の裁量次第で、収容期間の上限もない構造は維持されたままだ。国連の機関などが「国際基準を満たさない」と批判するが、政府は意に介さない。

 07年以降、入管施設に収容中に死亡した外国人は17人にのぼる。野党が提案している、収容やその継続の可否を裁判所が審査する仕組みなどがあれば、避けられた死もあったかもしれない。そんな視点で全体を根底から見直す必要がある。

 法案に反対する声は、当初は支援団体や法律家ら一部に限られたが、欠陥が明らかになるとともにSNSなどで広がっている。互いを人として尊重しあう社会を求める訴えを、政府与党は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

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