(社説)震災の伝承 官と民が手をつないで

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 宮城県石巻市に「みやぎ東日本大震災津波伝承館」が来月6日開館する。コロナ禍の影響で遅れていたが準備が整った。

 記憶と教訓を次代にどうつなぐか。発災から10年が過ぎたいま、被災地が、そして社会全体が抱える大きな課題だ。

 伝承館は、住民約500人が犠牲になった同市南浜地区の復興祈念公園に建設された。岩手県陸前高田市福島県双葉町にも同様の施設がある。いずれも国や県の予算が確保され、展示物や映像資料も豊富だが、公的な施設ゆえの難しさものぞく。

 双葉町の伝承館には、地元の来館者を中心に「原発事故の教訓が分からない」「避難生活の厳しさが伝わらない」といった感想が寄せられた。

 このため開館から半年が経った今春、パネルの解説文に「対策を怠った人災」「東京電力や規制当局による津波等への備えが不十分だった」の文言を盛り込むなどの見直しをした。館内で活動する語り部に、特定の団体への批判を控えるよう求める研修マニュアルを配り、反発を招いた苦い教訓もある。

 行政の公正・中立はむろん大切だが、特定の見解の押しつけや過剰な規制は施設への信頼を損なう。体験と記憶をありのままに語り継ぐという原点を大切にしなければならない。

 官とは違う視点に立ち、異なる角度から光を当てる民間の伝承の取り組みにも、しっかり目を向けたい。

 福島県いわき市の老舗旅館・古滝(ふるたき)屋は3月、宴会場を改修して「原子力災害考証館」を開設した。原発事故で捜索が打ち切られ、被災5年後にようやく遺骨の一部が見つかった小1の女の子が残した品、父親の手記、避難者が国や東京電力を訴えた訴訟記録などを展示する。

 16代当主の里見喜生(よしお)さんが熊本県水俣市を訪れ、行政と民間の施設がそれぞれの立場から水俣病を伝えているのを見たのがきっかけだ。「声なき声をすくい上げ、国や県には表現できないものを伝えたい」と話す。

 石巻市にも今春、民間伝承施設・MEET門脇ができた。代表理事の鈴木典行さんは児童74人が死亡・不明となった大川小の被害者遺族だ。「地域主体」を掲げ、遺構を生かし、語り部活動を通じて、一帯を震災を学ぶ場にすることをめざす。

 運営資金の確保をはじめ、民間活動には様々な壁が立ちはだかる。物心両面からサポートし、担う人材をともに掘り起こし、育てる。多様な伝承の形を官民でつくりあげてほしい。

 鮮明な記憶もやがて薄れる。それをとどめ、確かに引き継ぐことが、「次」の被害を抑えることにつながる。模索は続く。

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