(社説)大規模接種 自治体と並行し着実に

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 新型コロナの流行を収束させ、日常を取り戻すうえで、鍵を握るのがワクチンの普及だ。

 接種ペースを上げるために、国が市区町村を補完する形で大規模接種に取り組むことには意義がある。ただ、現場の負担を増やしたり、混乱を招くようなことがあったりしては本末転倒だ。加速化の旗をふる菅政権には、自治体の実情を直視した丁寧な運営を求めたい。

 政府が東京と大阪に設けた自衛隊大規模接種センターが始動した。当面は65歳以上が対象で、1日最大で東京は1万人、大阪は5千人の接種をめざす。

 自衛隊の医官、看護官を活用する構想は4週間前、事前の十分な調整のないまま、菅首相が打ち上げた。7月末までの高齢者接種の完了、1日100万回接種という目標を矢継ぎ早に打ち出し、自治体へのてこ入れを強める背景には、東京五輪開催に向けた環境を整えたいという思惑がうかがえる。

 この間、準備不足の影響は随所にみられた。システム上、自治体の接種との二重予約を防ぐことはできず、接種券番号の入力が必要なことから、順番に発送している自治体には苦情が寄せられた。送付の前倒しや番号を個別に知らせるなどの対応に追われたところもある。

 ただでさえ、ワクチンの流通状況や接種記録を管理する政府のシステムが二つあることが自治体に大きな負荷をかけている。さらに負担を増やすようなことは避けねばならない。

 架空の接種券番号でも予約できてしまう問題については、それを確かめたうえで報じた朝日新聞出版などが、防衛省から「悪質な行為」などと抗議を受けた。しかし、取材過程における予約は真偽を確認するためで、その後キャンセルしたことから、希望者の機会を奪うようなものでもなかった。誰でも予約できるシステムの問題点を指摘した記事には公益性があり、抗議は筋違いだ。

 センターでの接種には、厚生労働省が先週、特例承認したばかりの米モデルナ社のワクチンが初めて使われる。先行する米ファイザー社のワクチンは、医療従事者向けから徐々に使用が拡大されたが、モデルナ製は一気に大勢の高齢者に接種されることになる。それだけに、健康状態の丁寧なフォローアップが欠かせず、副反応に関する情報は速やかな公表が必要である。

 都道府県や政令指定都市でも大規模接種センターの設置が相次ぐ。政府は、国のセンターの予約やシステムをめぐる混乱、不備からくみ取った教訓を、これらの自治体としっかり共有し、率先して問題解決に当たらねばならない。