(社説)土地規制法案 懸念に応える審議を

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 恣意(しい)的な運用によって、人びとの権利や生活が不当に制約される恐れもある法案である。にもかかわらず、政府の説明はいまだ不十分であり、拙速に成立をめざすべきではない。まずは、これから始まる参院での審議で、政府は数々の疑問に明確に答えねばならない。

 基地や原発の周辺、国境近くの離島などの土地利用を規制する法案が、自民、公明の与党と日本維新の会国民民主党の賛成多数で衆院を通過した。

 私権を制限し、懲役を含む罰則のある法案だというのに、野党が求めた参考人質疑は行われず、12時間の審議で委員会採決が強行された。法案の必要性に一定の理解を示していた立憲民主党は反対に回った。

 この法案の根本的な問題点は、多くの重要事項があいまいなまま、法成立後に政府がつくる基本方針や政令に委ねられていることだ。白紙委任としないためには、法案に書き込んだり、政府答弁で明確に歯止めをかけたりする必要がある。

 特にはっきりしないのが「施設の機能を阻害する行為」の中身だ。政府が中止を勧告・命令でき、従わなければ懲役や罰金が科される重い規定である。しかし、政府は具体的なことは基本方針で定めるとして、電波妨害や構造物の設置など、ごく一部を例示しただけ。基地や原発に反対する住民運動の規制などに利用される懸念は拭えない。

 規制の対象区域は、重要施設の周囲1キロ以内と国境に近い離島である。重要施設で法案に具体的に記されているのは自衛隊、在日米軍海上保安庁の三つ。別途、国民の生命や財産にかかわる「生活関連施設」が政令で定められるが、政府が明らかにしたのは原子力関係施設と自衛隊が共用する民間空港のみ。鉄道や放送局も「将来的に定めることはありうる」と述べており、政府の裁量でどこまで広がるかわからない。

 政府が行う土地・建物の利用状況をめぐる調査の範囲も、より明確にすべきだ。首相が自治体などに提供を求める情報は、氏名・名称、住所のほか、「その他政令で定めるもの」とされている。政府は「思想信条にかかわる情報収集は想定していない」という一方、内閣情報調査室や公安調査庁との情報共有を明確には否定していない。関係者のプライバシーや思想・良心の自由が侵害されることがないよう、強い縛りが求められる。

 今国会は残り2週間。政府・与党は会期内の成立をめざすが、審議を尽くし、多くの懸念が解消されることが大前提である。形だけ議論し、最後は「数の力」で押し切るというようなことがあってはならない。