(社説)半導体支援策 経済合理性も見極めよ

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 かつて世界を席巻した日本の半導体産業の衰退が止まらない。1988年には50%を超えていた世界シェアが、2019年は10%まで低下した。反転攻勢を仕掛けようと、経済産業省はきのう、国産半導体の振興に向けた戦略をまとめた。

 柱は、デジタル機器の頭脳にあたるロジック半導体のてこ入れである。まずは、台湾積体電路製造(TSMC)など半導体生産世界大手の開発拠点を国内に誘致。さらに、量産工場の新設を目指すという。

 量産工場には1兆円超の資金が必要になる。米欧中が半導体産業に兆円単位の補助金投入を打ち出したことを念頭に、安倍前首相が最高顧問に就いた自民党半導体戦略推進議員連盟は「他国に匹敵する予算措置」を早急に求める決議をした。

 経済社会のデジタル化が今後も加速するのは確実で、中核部品である半導体の重要性はますます高まるだろう。米中対立が先鋭化するなか、台湾に生産が集中するリスクへの対応も重要な課題である。半導体をめぐる戦略や適切な産業支援の必要性自体は理解できる。

 ただ、「国産半導体産業復活」といった国民感情や、台湾有事への危機意識に訴える議論が先行し、経済合理性の検討がおろそかになっては困る。

 専門家の多くは、日本のロジック半導体の生産技術の遅れは、もはや挽回(ばんかい)不能と見ている。一方、米国には有力メーカーのインテルがあり、TSMCの工場誘致にも成功した。

 同一分野への補助金で生産能力が過剰になれば、共倒れになりかねない。衰退したとは言え日本も半導体製造装置や材料、記憶媒体などでは世界有数の競争力を保っている。こうした分野に注力するのが先決だ。

 重要な製品だからと言って、何でも国内で生産しようとするのは非現実的である。経済安全保障を強化するにしても、緊密な関係にある国・地域の強みを生かし、適切に生産を分担する発想が求められる。

 世界貿易機関(WTO)のルールは、貿易をゆがめる補助金を禁じている。「自由貿易の旗手」を自任する日本は、補助金合戦や米中対立を過熱させるのではなく、国際社会に自制を呼びかけるべきだ。

 近年の原発輸出をはじめ、経産省主導の国家プロジェクトは失敗の歴史と言える。戦略をまとめた有識者会議は2カ月前に設置され、会合を3回開いただけ。どの製品の生産を、いつ、どこまで増やすかといった具体的な目標は皆無である。

 経済安保を錦の御旗にずさんな政策を強行すれば、産業政策に新たな汚点を加えかねない。

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