(フォーラム)語られ始めた生理:1 これまで、これから

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 コロナ禍で「生理の貧困」が注目されましたが、あなたは生理(月経)を正しく説明できますか――。アンケートには、生理に伴う痛みや症状に個人差があることが理解されず苦しんだ経験や、学校などで知識が十分に得られていない現状を指摘する声が寄せられました。まずは、生理の仕組みや歴史、理解を深める取り組みを探ります。

 ■「ママブロック」なくしたい 東京大大学院准教授・甲賀かをりさん

 産婦人科医として診療にあたっていると、「生理についての誤解」が数多くあることを実感します。かなり重い月経痛があるのに、「これくらいは我慢するもの」と思い込んでいたり、月経に伴う不快な症状をずいぶん軽くしてくれる存在の「ピル」を使うことに強い偏見があったり……。

 これには、生理について「隠すことが美徳」とされてきた日本の風潮が影響していると思っています。

 特に、世代による価値観の違いは大きな課題です。生理不順や生理痛に悩む若い世代の患者さんのなかで、「お母さんが薬を使うことにいい顔をしない」という人は少なくありません。母親が、「生理くらいで病院に行くなんて……」と、我が子に通院を勧めないケースも多いようです。

 このように、月経に伴う不調を解消するための治療法や薬があるのに、なかなか医療にアクセスさせてもらえない実態を、私たちは「ママブロック」と呼んでいます。

 女性の体は、妊娠ができる準備が整い、「初経」を迎えたあと、1カ月ほどの周期を通じて大きな変化を遂げるようになります。この間の症状は人それぞれですが、体のホルモンバランスが変化することで、気分が落ち込んだり、イライラしやすくなったり、肩こりや腰痛が気になったり……。自分も周囲も、女性の体調にはこうした変化がありうるということを、きちんと認識してもらいたいです。

 生理は、決して「経血の流れる日」だけの問題ではありません。そのほかの期間もさまざまな体調の変化があることに、もっと理解が広まってほしいと思っています。

 生理に関するトラブルを抱えていても、産婦人科への通院はハードルが高いとも聞きます。ここは、私たち医師の反省点です。生理に関する不調で、あなたが「つらい」と思うなら、それだけで病院を頼っていいということを、もっと伝えていきたいと考えています。(中井なつみ)

 ■「生理の貧困」コロナ前から 歴史社会学者・田中ひかるさん

 平安時代以降、女性は政治的・宗教的に、「経血によってけがれた存在」だとされてきました。日本に限ったことではありませんが、月経中の女性や女性そのものをタブーと見なす「月経禁忌」の慣習は、各地で受け継がれてきました。月経中の女性を隔離するための月経小屋は、その代表的なものです。当たり前の生理現象によって、さげすまれる理不尽さは、女性たちの自己卑下につながりました。

 近代に入り、月経観は二つの大きな転換期を迎えます。一つは、明治初期に月経禁忌が法令で廃止されたこと。「富国強兵」のスローガンによって、月経は、労働力や「強兵」を生み出すための重要な生理現象だと再定義されたのです。

 もう一つは、現在の使い捨てナプキンの原型が発売された1960年代です。それ以前は、脱脂綿などで経血処置をしていた女性たちにとって、便利で快適なナプキンの登場は革命的でした。女性の社会進出を陰で支えたのが、使い捨てナプキンです。

 一方で、月経にまつわる問題、例えば生理用品の購入や心身の不調は、個人が内々に解決すべきこととされてきました。経済格差や情報格差が、「生理の格差」として現れます。コロナ禍前から、親が生理用品を与えないネグレクトも含めて、「生理の貧困」はありました。見えなかっただけです。特に児童や生徒については、学校が配るなどして、解決していくことが望まれます。(及川綾子)

 ■スピーチで空気変えたい サンリオエンターテイメント代表取締役社長・小巻亜矢さん

 今月、弊社では、「生理について思うこと」「性ってなんだろう?」をテーマに、スピーチコンテストの参加者を募集しています。対象は小学生から大学生。どちらかについて、スピーチ動画の投稿や文章を送ってもらいます。この企画は、「Let’s talk! in TOKYO」というタブーとされやすい課題について対話を広げ、女性のQOL(生活の質)の向上やエンパワーメント(力を高める)を目指す取り組みの一環です。弊社や国連人口基金(UNFPA)東京事務所、女性にかかわる企業などがメンバーです。「Let’s talk!」は、2018年にトルコで初開催され、私も参加しました。日本でもいつか開催したいと思っており、コロナ禍で、社会課題に寄り添うテーマパークというサンリオピューロランドのこれまでの経緯から、今こそ開催しようと思い立ちました。

 スピーチコンテストの狙いの一つは、コンテスト参加をきっかけに、「じゃあ、一緒に調べてみよう」と親子で生理について話せる雰囲気づくりです。これまで、親もなかなか生理について説明できなかったり、シングルファーザーからは、娘が生理になったらどうしようという話を耳にしたりしてきました。

 入賞者のスピーチの披露は、7月4日にサンリオピューロランドで予定しています。トークイベントの開催のほか、子宮頸(けい)がんの検診車も来ます。ハローキティなど、キャラクターがいることで、リラックスしながら生理について語り合える場になればと思います。

 生理について話しやすい空気に変えていくことが女性の尊厳を守り、活躍できる社会につながると考えます。健康へのサポートなくして、「女性活躍」を掲げる社会は口先だけだと思います。

 女性も、もっと生理を知り、自己管理をしていく必要があります。私は、乳がんや子宮の全摘出も経験していますが、生理を毎月の健康のバロメーターのように思っていれば良かったと反省しています。身体の不調は他人とは比べられないから、以前との違いを見過ごさないでほしいし、婦人科もためらわずに行ってもらいたいです。

 学校では宿泊行事の前やプールに入れない子が出てくる頃に、女子だけが集められて生理について学びます。まず、そこで「男子には内緒」と、教えているんですよね。身体の変化を知るのは大切なことで、みんな一緒に教えたらいいと思います。(及川綾子)

 ■あきらめていた痛み/女性でも理解しづらいことも

 フォーラムアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 ●ナプキンを隠す先生、強く記憶に

 小学校高学年で泊まりの校外学習前に、男女分けられて生理について初めて学んだ時から、なぜ男性が生理について具体的に知らないまま義務教育を終えられるのか疑問に思っていました。教室の外を男性の校長先生が通ったのですが、女性の保健の先生が、使い方を説明するために手に持っていたナプキンを校長先生に見えないように背中に隠したことが強く記憶に残っています。(東京都 10代女性)

 ●商品宣伝の経血を赤色にしては

 生理用品の宣伝では、経血を赤色ではなく青い液体で表現している。現実通りに赤色で表現するようになれば、最初は衝撃的で拒否感があるとは思うが、生理の「当たり前感」が増すのではないだろうか。(静岡県 60代女性)

 ●閉経迎え、解放された気分

 (生理は)それはそれは面倒なものでした。すでに閉経を迎えた私は、やっと解放された気分です。旅行や楽しみを我慢したことは数知れず。低用量ピルを早く知っていればと残念です。体調を崩す娘に受診を勧めています。(福島県 60代女性)

 ●渋々でも、知らないよりはマシ

 10代後半の息子たちに、生理や更年期の体調変化について度々話します。いつもの母親の愚痴って感じで、いきなり始まるので渋々付き合ってくれはしますが、ひとしきり聞いたらつまらなそうな顔で去っていきます。それでも知らないでいるよりは、ずっといいと思っています。(神奈川県 50代女性)

 ●親世代の思い込みに苦しんだ

 子どもの頃から生理痛がひどかったが、母親からは「病気ではない」「子どもを産めば治る」と言われ、そういうものかと諦めていた。

 職場の同僚に相談する中で、婦人科を受診し低用量ピルを処方された。副作用もなくとても快適で今までの足腰の鈍痛や吐き気、下腹部のズキズキした痛みがうそのよう。生理にかかわる体調不良がハンデになっていたのだと気付いた。

 母には「ピル=避妊薬を飲むのははしたない」という保守的な考えもあったのではないかと想像する。親世代の古い思い込みに苦しんだ。女の体に関連する事柄には、どこか道徳的価値が付きまとうのがつらい。(愛知県 20代女性)

 ●海外や昔の話だと思っていた

 生理について教わったことはあまりありませんでしたが、最近は記事やSNSでの発言を見る機会が増えて、生理による身体的なしんどさや精神的な落ち込み、個人差などがあることを知り、何となく分かった気でいました。しかし、「生理の貧困」は大変驚きました。海外や昔の話だと思っていました。私のように特別関心がない人のためにも、今後は女性やジェンダーの文脈以外でも、生理の記事が増えることを願っています。(埼玉県 30代男性)

 ●同性でも理解しづらい

 生理痛も生理不順もほとんどなく過ごしたので、同性としてもなかなか理解しづらい。(大阪府 50代女性)

 ●「買えない」ではなく、「買わない」のではないか

 生理用品はそんなに高いものではないのに、貧困で買えないとは理解できない。買えないのではなく、買わないのではないのか。たとえ貧困であっても、生活を見直すことが先決ではないか。生理用品を無償で配布することとは違う問題だ。生理への考えの貧困だと思う。(埼玉県 70代男性)

 ◇多くの人が子どもの頃から、理由も分からず、ヒソヒソすべきことだと植え付けられてきた。その結果、誰しもが無知になりがちで、そこから生まれる偏見や無関心、心ない一言で、当事者がさらなる困難に直面してきたのではないか。

 今回のアンケートは若年層からの回答が多く、同性からの理解や支援がないことが、いかにつらいかという経験談が印象に残った。一方で、男性からは「もっと互いに話し合うことが必要」という声もあり、社会全体の課題としてとらえられつつある。

 悩みや疑問を抱える子どもたちが、「『生理』と口に出しても恥ずかしくない」と思える空気を、大人がつくることが、はじめの一歩だと思う。(及川綾子)

 ◇来週13日も「語られ始めた生理」を掲載します。

 ◇アンケート「体の痛み、どこまで我慢しますか?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施中です。ご意見、ご提案はasahi_forum@asahi.comメールするへ。

 

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