(社説)ワクチン開発 反省踏まえ基盤固めを

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 政府がワクチンの開発と生産体制を強化する長期戦略をまとめた。今のコロナ禍が収束しても、感染症のパンデミック(世界的大流行)は社会が抱える最大規模のリスクだ。その認識を新たにして、研究から製造、接種を確実に実践するための基盤を整えなければならない。

 欧米で新型コロナワクチンが早期に開発されたのに比べ、日本は大きく立ち遅れた。09年に新型インフルエンザが流行した際、ワクチン戦略の重要性が指摘されながら、十分な措置をとってこなかったことが、彼我の差を生んだといえる。先行国との違いを検証し、何が足りなかったかを明らかにして、政策を練る必要がある。

 10兆円の国内市場があるとされる医薬品に対し、ワクチンは3200億円にとどまる。多くの利潤が見込めないうえ、重い副反応が出た場合の経営への影響も考えて企業は二の足を踏みがちだ。大学や研究機関との橋渡し、開発・製造拠点の整備、製品の買い取りなど、国による一定の支援は欠かせない。

 難しいのが治験だ。安全性と有効性が認められた他国のワクチンが実用化されている時に、国産品の開発で治験を行うことには倫理上の問題が拭えない。どんな条件や手続きの下でなら被験者を集められるか。代替策はとれないか。幅広い理解に向けて、日頃からそのあり方の議論を深めておくべきだ。

 長期戦略にはアジア地域との連携も明記された。共同して臨床研究や治験を充実させるのはもちろんだが、自国の利害得失にとどまらず、国際貢献の観点からの取り組みが重要だ。

 何より基礎研究へのテコ入れを忘れてはならない。国内で接種が進むコロナワクチンは、ファイザー製、モデルナ製とも遺伝情報の一部を使うもので、長年の地道な研究の成果だ。

 「選択と集中」の名のもと、すぐに役立ちそうな研究ばかり追求していては、現在の知見が及ばない新たな危機に対処できない。実現可能性が不明でも、基礎研究を続けられるよう適切にサポートし、科学技術力の足腰を強化するべきだ。計画の立案と実践、評価体制の構築、それらを担う人材の育成が、今後の発展のかぎを握る。

 副反応が深刻な社会問題になったことがある日本では、他国に比べワクチンへの抵抗感が強い傾向がある。公衆衛生と本人の健康の双方の観点から、どんな利点とリスクがあるかを丁寧に説明し、世の中全体で認識を共有していくことも大切だ。

 パンデミック対策は国の安全保障・外交政策とも密接に関わる。09年以降の轍(てつ)を踏まず、戦略の着実な実現が求められる。