(社説)イスラエル 分断修復の道、模索を

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 敵を強調して危機をあおる。「国を守れるのは自分だけ」と支持を集める。そんな手法が残した国内外の分断は根深い。

 中東のイスラエルで12年間にわたり首相だったベンヤミン・ネタニヤフ氏が、退陣した。

 新政権には数々の負の遺産が残されたが、連立を組む8党の政策はばらばらで心もとない。今後も波乱含みだろう。

 ネタニヤフ氏にとって、足元の敵はパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスだった。パレスチナとの和平交渉を7年前に止めたのも、ハマスが自治政府に加わる動きを見せたからだ。その後も軍事的な衝突を繰り返してきた。

 一方で、国際法違反との非難を無視して、東エルサレムヨルダン川西岸などへの入植を続けた。占領地にパレスチナ国家をつくり、イスラエルと共存するという「2国家解決」の国際的な目標を掘り崩した。

 3年前にはユダヤ人国家法を成立させた。自決権はユダヤ人にだけ認め、公用語はヘブライ語のみとする。国内人口の約2割を占めるアラブ系の人権を軽視しているとの批判が絶えず、「アパルトヘイト国家」になるのか、との声すらある。

 占領地でパレスチナ人の権利を保障せず、国内社会でアラブ系への差別を省みない。そんなネタニヤフ氏の強硬姿勢が、どれほど国際的に冷視されてきたか。政権交代を機にイスラエル政界は熟考すべきだ。

 新首相に就いたナフタリ・ベネット元国防相は、極右政党の党首だ。パレスチナ問題での進展は期待できない。ただ、政権を維持するためには、連立を組む中道や左派、アラブ系政党との妥協を図る必要がある。

 その努力は、イスラエル社会に横たわる数々の断層に向きあうことにも通じる。右派と左派、世俗派と宗教派、ユダヤ人とアラブ系などの対立の溝を埋めない限り、この国の安定した未来図を描くのは難しい。

 ハマスとの先月の衝突では、双方で合わせて250人以上が死亡した。占領地だけでなく国内でも小競り合いや拘束は繰り返され、人々の暮らしは日々、暴力の恐怖と背中合わせだ。

 息苦しい緊張のなかで、イスラエルパレスチナのどちらも、和平を期待する声は少数派になった。その責任は、両者の政治家、そして米国を筆頭にした国際社会にある。

 米国はトランプ政権下でネタニヤフ氏に寄り添う政策を推進し、公平な調停役としての立場を損ねてしまった。バイデン政権にとっては厳しい出発点ではあるが、イスラエル政治の区切りを機に、新たな対話と和平の模索に着手してほしい。

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