(社説)カルテ開示判決 国際基準踏まえ改善を

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 常識に沿う明快な判断である。これに反する措置をとってきた国、そしてその言い分を受け入れた一、二審は、厳しく批判されてしかるべきだ。

 拘置所に収容されていた男性が、その間に受けた診療の記録の開示を求めた裁判で、最高裁は訴えを認める逆転判決を言い渡した。男性は歯の治療を十分してもらえず、外部の医師に症状を説明したいと考え、記録を取り寄せようとした。だが国に拒まれたため提訴していた。

 行政機関が保有する個人情報の扱いを定めた法律は、「刑事裁判に係る個人情報」を開示の対象外としている。施設内での診療記録がこれに該当するかが争点になったが、最高裁は「当たらない」と判断した。開示を受ける利益や、医療行為に関するインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)の重要性を指摘したうえで導き出された結論で、高く評価できる。

 国側の主張は納得できる内容ではなかった。診療の目的は身体を拘束されている者の健康の維持・管理であり、記録は刑事裁判に密接に関連しているなどというもので、開示しないための強弁と言うほかない。

 行政機関がどんな個人情報を保有・利用しているかを本人がチェックできるようにして、権利や利益を守るという観点からも、自らの診療記録へのアクセスが認められるのは当然だ。

 同様の開示請求はこれまで相当数あったとみられる。だが国は一貫して応じず、被収容者が施設内でけがをしたり、病気が悪化したりした場合、施設側の責任を解明する壁にもなってきた。国は判決に沿って直ちに対応を改める必要がある。

 裁判長を務めた行政法学者出身の宇賀克也判事は補足意見で「刑事施設における自己の医療情報へのアクセスの保障はグローバルスタンダードになっている」と指摘。15年に国連総会が採択した、拘禁されている者の処遇に関する通称マンデラ・ルールなどに言及した。

 政府は、国境をまたぐ犯罪の摘発やテロ資金の規制では国際協調をうたい、法整備にも力を入れる。一方で、国際人権規約やこのマンデラ・ルールなど、人権に関わる取り決めの履行では立ち遅れが目立つ。国際基準の「つまみ食い」は世界の信頼を失うと知るべきだ。

 拘置所や刑務所でも社会一般の水準にかなう医療措置が求められるが、課題が多いことを法務省も認めている。裁判に至った経緯と問われたものを振り返り、記録の保管と開示、そして医療の質の向上に努めなければならない。退去強制の対象となった外国人を収容する入管施設でも守られるべき規律だ。

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