(社説)再拡大懸念下の解除 五輪リスク、首相は直視を

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 東京では新型コロナの新規感染者数が下げ止まり、増加に転じる気配もある。専門家から早期のリバウンド(再拡大)への強い懸念が示される中での緊急事態宣言の解除である。

 大半の地域がまん延防止等重点措置に移行し、引き続き宣言に準じた感染対策がとられるとはいえ、長期に及ぶ自粛生活を強いられた人々の行動抑制がどれだけ続くかは見通せない。

 それに加えて、1カ月後に迫る東京五輪である。選手の行動は制御できても、祝宴ムードで人の流れが増えれば、感染拡大につながりかねない。国民の命と暮らしを守る重責を担う菅首相は、「五輪リスク」から目をそむけてはならない。

 ■対策はワクチン頼み

 政府が、沖縄を除く9都道府県で宣言を解除し、うち東京、大阪など7都道府県で重点措置に切り替えることを決めた。

 東京では、2度の延長にもかかわらず、1カ月もたたずに感染の再拡大を招いた前回の解除時より状況は悪い。専門家からは、ワクチンの普及を織り込んでも、人の流れが増えれば、五輪開催のころに再び宣言を出さざるを得ない状況になりうるとの試算も示された。

 関西で医療の機能不全を引き起こした変異ウイルスのアルファ株が、全国で主流となっている。インドで確認された、さらに感染力の強いデルタ株への置き換わりが進めば、事態は一層深刻となる。

 ワクチン接種も担わなければいけない医療関係者に、これ以上の負荷をかけないよう、再拡大の防止は最優先で取り組むべき課題である。だが、前回の解除時に政府が掲げた5本柱の総合対策は、ワクチン接種を除けば、多くは中途半端なままだ。

 追加の病床確保はさほど進まず、変異株の監視・封じ込め態勢も十分とはいえない。無症状者を対象としたモニタリング検査も、再拡大の予兆を捉えられているか甚だ疑問だ。

 ■説得力欠く自粛要請

 重点措置の下、飲食店への時短要請は継続される。感染対策を徹底する店に対しては、酒類の提供を認める緩和策もとられるが、知事の判断で引き続き停止を求めることも可能だ。宣言が長引き、業界からは「もう限界だ」との声があがる。適切な対策を取ったうえで営業できる仕組みづくりに本腰を入れるとともに、自粛を求めるなら、協力金の迅速な支給など、実効性のある支援策が不可欠だ。

 首相は、国民の命と健康を守るのが前提といいながら、具体的なリスク評価を示すことなく、五輪開催に向けて突き進む。日常生活になお、さまざまな制約を受ける国民からすれば、「五輪は特別扱いなのか」という思いは拭えないだろう。

 社説はこの夏の開催中止の決断を首相に求めたが、政府は厳しい現実に目をふさぎ、もはや後戻りは出来ないといわんばかりの頑(かたく)なな姿勢を崩さない。

 来日する選手の行動範囲は、宿泊先である選手村、練習や試合会場に限られるが、約8万人ともいわれる大会関係者は都内や近郊に滞在する。約7万人のボランティアをはじめ、食事や清掃、輸送、警備など大会を支える人々が、選手村や会場などに出入りする。感染のリスクは否定できない。

 五輪の期間は、夏休みとも重なり、ただでさえ人の移動や飲食の機会が増える。昨夏は、知事らが、帰省や上京の自粛を呼びかけ、なんとかこの時期の感染拡大を免れたことを忘れてはならない。今年も同様に自粛を呼びかけたとしても、五輪が開催されていれば、説得力を欠くのではないか。

 ■必要なら「再宣言」も

 政府は五輪の観客について、「最大1万人」を入れる案で調整に入ったという。重点措置からはずれた地域でのイベント制限に準じた扱いだというが、専門家らが「五輪は別」ということで了承した数字だ。プロ野球やJリーグなど個別のスポーツと五輪を同列には扱えないという考えはもっともである。

 首相はゆうべの記者会見で、「何よりも警戒すべきことは、大きなリバウンドを起こさないことだ」として、国民に理解と協力を求めた。新規感染者に占める高齢者や医療従事者の割合が低下しているとして、ワクチン接種の効果をアピールした。

 五輪を安心安全な大会にするための具体策については、観客入りを念頭に、会場への直行直帰や時差来場、マスクの常時着用と大声での声援の禁止などを新たに呼びかけたが、これで国民が納得するとでも思っているのだろうか。

 政府の解除方針を了承した分科会の尾身茂会長は、再拡大の兆しがあれば、機動的に宣言に踏み切ることが前提だと述べた。首相は会見で、必要なら宣言や重点措置を行う考えに変わりはない、と述べた。その言葉通り、五輪の前や期間中であっても、再宣言をためらうべきではない。「開催ありき」「観客ありき」の発想では、国民の命と暮らしは守れない。

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