(社説)国立大交付金 深まる矛盾に目向けよ

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 現場の切実な訴えにも、先達が発する警告にも耳を貸さず、決められた路線を漫然と進む。こんなことでは日本の将来への不安は膨らむばかりだ。

 国立大の人件費や研究費に使われる運営費交付金のあり方について、文部科学省の有識者会議(座長=車谷暢昭・前東芝社長)が先月報告書をまとめた。

 来年度から6年間の資金の配分方法の大枠を示したものだ。内容はこれまでの制度の微修正にとどまり、国立大側が出していた要望や問題意識に応えるものにはならなかった。

 焦点になったのは、論文の引用件数や若手研究者の比率、寄付金の獲得実績といった共通の指標で文科省が大学を評価し、それに応じて支給額に差をつけるいまの仕組みの当否だ。大学に改革を促すとして、19年度からこの傾斜配分型の予算枠が導入・拡充されてきた。

 国立大側も競争や評価の必要性は認めている。だが、指標は各大学の特色を無視した画一的・定量的なもので不適切なこと、予算が毎年増減して教員を安定して雇えず、研究・教育の向上や若手登用をむしろ妨げていることなどを指摘。廃止するか、現在の年間予算1兆1千億円とは別に資金を確保し、それを配分するよう求めていた。

 この間の経験を踏まえた、うなずける提言だ。地位に安住して実績を残していない教員がいるなど、大学側にも反省すべき点はある。しかし近年、「選択と集中」の名の下、現場が余裕を失い、深刻な危機に直面していることは、さまざまなデータや逸話が裏づけている。

 00年度は米国に次ぐ2位だった日本の論文数は、中英独に抜かれて5位に転落した。論文の約半分を生み出す国立大では、若手を中心に任期付き教員の割合が増え、07年度の24%が20年度は38%になった。

 短期間で成果を出すことが強く求められ、自然の原理の発見や新しい物質の創出などにつながる基礎研究がおろそかになっていると指摘されて久しい。不安定な身分を避け、学問の道を断念する者も少なくない。

 ノーベル賞受賞者をはじめ、見直しを訴えてきた多くの人の声を有識者会議はどう受け止め、目の前の現実をどう評価して結論を出したのだろうか。

 研究の中核的存在である国立大の基盤を支える運営交付金をしっかり確保し、そのうえで競争を促す仕組みを築く。そんなふうに軌道修正するべきだ。

 山積する課題の解決に向け、政府は国立大の「知」に期待しているという。であるならば、それに見合う政策を用意し、大学が持てる力を発揮できる環境を整えなければならない。

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