(社説)防衛白書 対中、懸念のその先は

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 中国の軍事的台頭に対する強い警戒感が伝わってくる。一方で、信頼醸成への取り組みや対話が進んでいない現状もある。中国と平和的で安定した関係を築くには何をすべきか。政府は懸念の先を示す必要がある。

 21年版の防衛白書が公表された。諸外国の防衛政策の記述では、中国の分量が米国の約3倍にのぼる。新設された「米中関係」の節では、中国が台湾周辺での軍事活動を活発化させ、米国も台湾支援を鮮明にしているとして、「台湾情勢の安定は、わが国の安全保障や国際社会の安定にとって重要」との認識が初めて示された。

 海洋進出を強め、米国と対立を深める中国にどう向き合うかが、日本にとって最重要課題であることは確かである。

 中国の国防費は日本の防衛費の約4倍。潜水艦や艦船、戦闘機など近代的な装備の数でも自衛隊を大きく上回る――。中国の急速な軍事力の増強ぶりを、白書はグラフや写真を織り交ぜて紹介。尖閣諸島周辺では「力を背景とした一方的な現状変更の試み」が「執拗(しつよう)に継続」されているとして、中国海警船の活動が過去最多、過去最長を更新したデータを列挙した。

 いずれも、国民にわかりやすく現状を訴える狙いがあるのだろう。他方、防衛当局間の交流など、信頼醸成に資する取り組みの扱いは素っ気ない。

 ただ、中国に対する全般的評価は、「安全保障上の強い懸念」であるという、昨年の表現を踏襲した。防衛省内では、「脅威」など「懸念」より強い文言とすべきかをめぐって議論があったようだが、最終的には前回同様に落ち着いた。妥当な判断といえる。

 防衛白書には、防衛省・自衛隊の国際情勢認識や防衛政策の方向性を明らかにすることによって、国防に対する国民の理解や協力を得る狙いに加え、諸外国に向けて、日本の意図を正しく伝えるメッセージという意味合いもあるからだ。

 攻撃的な発信が対抗措置を招き、相互不信から軍拡競争へつながる事態は避けねばならない。また、偶発的な衝突がエスカレートしないよう、意思疎通を緊密にすることも不可欠である。日中防衛当局間の「海空連絡メカニズム」については白書でも言及があるが、緊急時に直接連絡を取り合うホットラインはいまだ実現していない。設置に向けた協議を急ぐべきだ。

 力による対決ではなく、協調による共存をめざすには、外交や経済を含めた総合的な戦略と重層的なアプローチが必須である。防衛省・自衛隊のみならず、政府全体としての取り組みが問われている。