(社説)「黒い雨」判決 ただちに救済の決断を

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 地裁に続いて高裁も被爆者として広く救済するべきだと判じ、地理的な線引きにこだわる政府の姿勢は再び否定された。これ以上、裁判で争ってはならない。政府はただちに非を認め、救済を決断するべきだ。

 広島に原爆が投下された直後、放射性物質を含む「黒い雨」の下にいながら手当支給などの援護の対象外とされてきた原告の住民ら84人について、広島高裁は全員を被爆者と認めた。原告側が勝訴した1年前の広島地裁判決を基本的に引き継ぎ、行政側の控訴を退けた。

 政府は、原爆投下直後に行われた調査をもとに、大雨が降った地域にいた人だけを特例措置として援護対象としてきた。これに対し広島地裁は、一人ひとりの黒い雨体験を重視し、健康状態も加味して判断。今回の高裁判決は、原爆の放射能による健康被害を否定できなければ被爆者にあたるとし、政府が主張する「科学的な合理性」にこだわらず救済の間口を広げた。

 被爆からまもなく76年。被爆者の高齢化はいやおうなく進み、この裁判でも6年前の提訴後に原告のうち14人が亡くなった。一連の判決は、救済を急げとの強いメッセージである。黒い雨を直接浴びた外部被曝(ひばく)だけでなく、放射性物質に汚染された水などを口にしたことによる内部被曝の影響も考慮した点を含め、評価したい。

 政府は地裁での敗訴後、厚生労働省に有識者検討会を設け、援護対象区域の拡大を視野に検証を始めた。しかし検討会は、降雨域を探る気象シミュレーションや土壌調査の検討に時間を費やし、結論への道筋は見えないままだ。

 田村厚労相は6月下旬、検討を加速させる意向を広島県に伝えたというが、見通しはあるのか。科学的な根拠に基づき援護対象を地理的に線引きするという考え方自体が、もはや行き詰まっているのではないか。

 従来の行政と決別することは、役所任せでは難しいだろう。決断すべきは菅首相である。政治の責任として方針転換を指示するべきだ。

 広島県広島市も問われる。県と市は、原告側が求めた被爆者健康手帳の交付業務を国から受託している関係で、裁判では国に代わって原告と対峙(たいじ)している。地裁での敗訴時は、援護区域の拡大に期待し、国の方針に従って広島高裁へ控訴した。同じことを繰り返すのではなく、高裁判決を受け入れるよう国に強く働きかけることが被爆自治体の役割だ。

 救済を求める被爆者の声を、それを支持する司法の判断を、唯一の戦争被爆国の政府が受け流すことがあってはならない。