(社説)最低賃金上げ 政府も役割を果たせ

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 最低賃金の今年度の目安額が厚生労働省の審議会で決まった。全国加重平均で28円の引き上げで、時給で示すようになった02年度以降で最大の上げ幅だ。目安通り実施されれば全国平均は930円になる。

 昨年度は、コロナ禍での厳しい経済・雇用状況に配慮して目安を示さなかったが、「より早期に全国平均1千円」の目標を掲げる政権の意向に沿って、コロナ禍前の引き上げペースに戻った。

 先進諸国の中でも低水準の日本の最低賃金は、今後もさらなる引き上げが必要だ。今回、目安を示して方向性を明確にしたことは評価したい。

 ただ、飲食・宿泊業など、コロナ禍で厳しい状況にある事業者も少なくない。地域経済や雇用に悪影響を及ぼさぬように、引き上げが可能な環境を整えることが大切だ。

 とりわけ、引き上げの旗を振ってきた政府の役割は大きい。今回の判断について、審議会の報告書はワクチン接種が進むなどの状況の変化、春闘などでの賃上げの状況などを挙げた。しかし最も影響を与えたのは、政府の姿勢が雇用維持優先だった昨年とは一変したことだろう。

 政府は、コロナ禍で打撃を受けた事業者への支援強化、賃上げをした事業者への補助金拡充などを打ち出しているが、中小・零細企業が継続的に賃金を支払える体力をつけなければ、本質的な解決にならない。付加価値の高いサービスやものづくりを後押しし、生産性を向上させる取り組みが欠かせない。

 大企業と下請けの取引条件改善も長年の課題だ。下請けが不当な価格での取引を強いられないよう監視体制を強めるとしているが、施策の実効性を高める努力が求められる。

 一方、生活を支えるのに十分とは言えない最低賃金の地域はなお残る。今回、目安通りに引き上げが進んでも全国平均の930円を超えるのは7都府県、政府目標の1千円を超えるのは東京、神奈川の2都県だけだ。

 働く人たちの生活の安定を図るという原点に立ち返れば、全国平均の目標達成だけでなく、800円台の地域の底上げこそ急務だ。

 この秋には、目安の決め方に関する5年ごとの見直しの議論が始まる。全国を4ランクに分けて目安を示す今のやり方が良いのかも含め、底上げに資する方法を考えてほしい。

 今回、強い反対を押し切られた使用者側からは不満の声も聞こえる。厚労省の審議会は非公開のため、目安額の根拠や決定の過程は一般の人たちにも分かりづらい。そうした審議会のあり方も見直す必要がある。