(社説)「黒い雨」救済 根本から改め対応急げ

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 地理的な線引きによらず、健康被害の有無にかかわらず、放射性物質を含む「黒い雨」に遭った人は被爆者である。司法が示したこの判断に沿い、政府は全面救済を急がねばならない。

 76年前の8月、原爆投下直後の広島にいながら救済対象とされなかった住民らが裁判に訴え、広島地裁に続き広島高裁被爆者健康手帳の交付を命じた判決が確定する。厚生労働省などは最高裁で争うよう主張したが、手帳交付の事務を担う広島県・市の強い反対もあり、菅首相が上告断念を決めた。

 首相は、84人の原告全員に手帳をすみやかに発行するのに加え、原告と同様の事情にある人は被爆者と認定し、救済できるよう検討すると表明した。広島県の推計によると、黒い雨にさらされた人は、今も1万3千人にのぼる。こうした人たちが皆、名乗り出て救済されるよう、相談・受付窓口の整備など態勢づくりが急務である。

 何より、これまでの被爆者援護行政を根本から見直すことが不可欠だ。対象区域を決め、そこにいた人のうち一定の疾病を抱えた人に特例として手帳を出す。そうした対応と決別すべきことを、政府は自覚しなければならない。

 気がかりなことがある。

 まず、首相が「判決には受け入れがたい部分がある」として発表した談話だ。そこで強調したのは、放射性物質に汚染された水や食物を口にしたことによる内部被曝(ひばく)に関してで、判決が健康への影響を認めた点を「容認できない」とした。

 談話はその一方で、「国の責任で援護するとの被爆者援護法の理念に立ち返る」と述べている。その言葉に偽りがあってはならない。被爆者は高齢化が進む。新たな線引きを設け、救済を遅らせることは許されない。

 もう一つは、政府が昨年夏に地裁で敗訴した後、厚労省に設けた有識者検討会だ。

 援護対象区域の拡大を視野に入れるとしてきたが、議論は行き詰まっている。被爆から長い年月を経て新たなデータが乏しいなかで、「科学的な合理性」にこだわる姿勢が強いためだ。厚労省は検討会を続ける構えだが、どう運んでいくのか。

 もう一つの被爆地・長崎でも、地理的な線引きで援護対象からはずれた人が、やはり司法の場で争ってきた。広島と同様に対応すべきなのは言うまでもない。

 戦後長らく放置された被爆者は、裁判で繰り返し政府に問い続けた。そうして手にしたのが、「国の責任」を明記した被爆者援護法である。成立から四半世紀余り。被爆者の思いに、今度こそ応えねばならない。