(耕論)性交同意年齢の波紋 島岡まなさん、嘉門優さん、阿部守一さん=訂正・おわびあり

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 「性交同意年齢」をめぐる発言で、国会議員が議員辞職に追い込まれた。SNSの普及で性被害が深刻化するなか、どうすれば子どもを守れるのか。処罰はどうあるべきなのか。発言の背景にあるものを考える。

 ■性的搾取の問題に無自覚 島岡まなさん(大阪大学教授)

 本多平直衆院議員が「50代の私と14歳の子が、恋愛したうえでの同意があった場合に罰せられるのはおかしい」と発言した立憲民主党内の会合に、私は有識者として出席していました。性行為の同意能力があるとみなす「性交同意年齢」を、一律に13歳から16歳に引き上げるべきだという私の主張に対して、本多氏から飛び出したのが、あの発言でした。

 「真摯(しんし)な恋愛」を隠れみのに性的搾取がなされていることが社会問題化している。そうした問題に無自覚な発言が、刑法改正を議論する国会議員からなされたことに、私は驚きました。近年の性犯罪をめぐる議論に対応できていない。アップデートできていないのだと思いました。

 日本の性交同意年齢は100年も前から基準が変わらず、各国との状況とくらべてもその遅れは顕著です。日本は学校などでの性教育も不十分です。どうすれば対等な関係が築けるかということをほとんど教えません。だからこそ、年齢を引き上げる必要があります。

 刑法の分野は、ジェンダー平等の取り組みが進む中でも、議論が遅れています。フランスのようなジェンダー先進国ですら、刑法は一番最後でした。

 なぜか。刑事裁判では、国家と加害者という対立が先鋭化するからです。18世紀に人権の概念がうまれ、疑わしきは被告人の利益に、という近代刑法の大原則が打ち出されました。刑事弁護士や刑法学者の間には、いまだにこうした人権概念が錦の御旗のように存在しているのです。

 私は刑事法制について検討する日本弁護士連合会の委員たちを前に、こう話したことがあります。「あなたたちの『人権』は18世紀のもの」「みなさんの『人権』には、性犯罪被害者の人権が置き去りにされていることを自覚してほしい」。批判を覚悟していましたが、反論はありませんでした。

 冤罪(えんざい)のリスクがあるのは、ほかの先進諸国でも同じですし、性犯罪に限った問題でもありません。被疑者段階から国選弁護人をつける、取り調べを可視化する、人質司法をやめる。そうした冤罪防止策を徹底した上で、被害者保護に万全を期すのが本来の姿なのに、日本は、その両方が遅れているために、性犯罪被害者にしわ寄せがいってしまう状況です。

 「国家権力から個人を守る」というリベラルな人権のとらえ方と、ジェンダー平等や性犯罪被害者の保護は二律背反ではなく、両立できるものです。今回の発言によって人権後進国であり、ジェンダー後進国でもある日本の現状が、目に見える形で浮かび上がったとも言えます。これを機会に前に進めて欲しいと思います。(聞き手・三輪さち子)

     *

 しまおかまな 1961年生まれ。フランス留学を経て、2006年から現職。専門は刑法。ジェンダーフランス刑法に詳しい。

 ■引き上げ以外の選択肢も 嘉門優さん(立命館大学教授)

 近年の未成年者の性被害は、写真がインターネット上にばらまかれるなど、昔とは全く違う状況が生まれています。同意しているように見えて、実はだまされていたというケースも後を絶ちません。

 深刻化する性被害をどうしたら防げるのか、刑法学者が国際的な比較や議論をしているところに、本多議員の発言がありました。この発言が議論することをタブー化させ、検討を止めてしまった面があるのが残念です。

 私は、刑法の性交同意年齢を引き上げていく方向性に全面的に反対というわけではありません。ただ、問題は規制のあり方です。どのような形で処罰することが、未成年者を保護し、被害者を救うことにつながるのか。さらに、その処罰が社会にどのような影響を与えうるのか、という点にも焦点を当てて議論を進めていくべきです。

 刑法の性交同意年齢を13歳から16歳に引き上げる場合、16歳未満との性交等はすべて処罰されることを意味します。懸念されるのは若者同士の恋愛に基づく性行為を禁じてよいのか、ということです。

 高校生にもなると、同世代と恋愛して性行為にも興味を持つことがあるかもしれません。これを強制性交という犯罪として一律に扱うことが本当にいいのかどうか。強制性交罪は懲役5年以上の刑罰が科されます。

 何を「健全な関係」とするのか。各国も悩んでいるところで、線引きは難しい問題です。

 年齢が近い場合は認めるという考え方もあります。それでは生やさしいと批判されるかもしれません。

 日本では、これまでに未成年者をまったく保護してこなかったわけではありません。18歳未満に対する性犯罪は、青少年の健全育成という観点から、児童福祉法や淫行条例、児童買春・児童ポルノ禁止法といった、刑法以外の法律・条例で処罰されてきました。

 刑法によって一律に処罰することになれば、同年代と恋愛の上で性行為をした若者のような、加害者と言えるのか微妙な人まで対象に入ってしまう可能性があります。性暴力被害者を前にこういった懸念を示すことに心苦しい思いはありますが、議論をしていく必要があります。

 性暴力被害者がフラワーデモで訴えたことで、警察が被害届を受け取ってくれなかったり、検察が起訴してくれなかったりする実態が広く知られるようになりました。

 未成年者を保護するために、何が必要なのか。法律をつくっても、社会にあわなければ意味がない。よりよい解決策を導くために「年齢を引き上げればいい」ということだけではなく、いくつものオプションを出して、国民的な議論を高めていくべきだと思います。(聞き手・吉川真布)

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 かもんゆう 1976年生まれ。専門は刑法。著書に「法益論―刑法における意義と役割―」、「新経済刑法入門」(共著)など。

 ■条例ないと守り切れない 阿部守一さん(長野県知事)

 長野県は、全国で唯一、いわゆる「淫行条例」がない県でした。全国では1950年代から、青少年保護育成条例などのなかで18歳未満との性行為を「淫行」として処罰する規定をもうける動きが広まりましたが、長野県では地域住民や子どものサポート制度などで「県民運動」として子どもを守っていく選択をしてきました。過度な規制ではなく、県民の取り組みによって守るべきだという風土があったからです。

 ですが、県民運動をしている人たちからも、「いまのままではもう守り切れない」という声が強くなっていきました。大きかったのは、子どももスマホを持つようになり、いつでもどこでも、知らない人とつながることができるような環境の変化です。もはや子どもが判断できる範囲を超えています。行動の自由を規制しないことより、子どもを守ることの利益が上回っていると判断し、2013年から条例の検討を始めました。

 16年7月に成立するまで、ほぼ3年かかりました。罰則を設けて人と人との関係を規制することに反対する人も多かった。性被害者をサポートする人たちなど53の団体と意見交換もしました。行動規制をかける以上、理解と納得を得ることが非常に重要です。

 当時、「真摯(しんし)な恋愛でも処罰するのか」という声は、反対論の中心の一つでした。ですが、未成熟な子どもに対し、大人の責任として許されないことはあります。子どもたちは被害者であっても、「自分が悪かった」と考えてしまい、その傷の影響はとても大きい。何が許され、何が許されないのか。道徳的規範だけでなく、罰則を設けることで明確になる面があると考えました。

 一方で、条例は「真摯な恋愛を除き」という文言を盛り込み、18歳未満の子どもには、違反しても罰則は適用していません。他の自治体のように不健全な図書の規制などは入れませんでした。「最後の条例制定県」といわれますが、初めて子どもを性被害から守ることに特化した条例を制定した県だと考えています。

 私は、刑法の性交同意年齢は一定の引き上げが必要だと考えています。ですが、年齢要件は子どもを守るために必要なことの一部にすぎない。性教育やインターネット教育、被害にあった子どもの救済など、法律以外の面にも省庁横断で取り組むべきです。加害者が罰せられれば解決するわけではありません。

 この分野は、法律の空白地帯を地方自治体が条例で埋めてきた面があります。長野県ですら条例をつくらざるを得ない社会環境ですから、法改正は急務。国より先行している地方自治体の運用実績などをふまえ、議論を進めてほしいです。(聞き手・田中聡子)

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 あべしゅいち 1960年生まれ。旧自治省長野県副知事、横浜市副市長などを経て、2010年から現職。現在3期目。

 <訂正して、おわびします>

 ▼7月31日付オピニオン面「耕論 性交同意年齢の波紋」につく「性交同意年齢、海外の例は」の表で、その年齢に満たない人との性行為が一律に禁止される年齢について、台湾が「14歳」とあるのは「16歳」の誤りでした。法律の確認が不十分でした。