(社説)数学の難問 その先に新しい世界が

[PR]

 夏休みも最終盤。算数や数学の宿題に頭を抱えてはいないだろうか。

 算数や数学は、大抵どこかで壁にぶつかる。分数の足し算、図形の証明、三角関数、微分積分――。そしてずっと先、最先端の数学者たちでさえ、解けない問題だってある。

 そのひとつ「ABC予想」を証明したのが京都大学数理解析研究所の望月新一教授だ。

 1、2、3……と無限に続く整数。単純だが奥深い整数論は「数学の女王」とも呼ばれる。その足し算とかけ算の間に特別な関係が成り立つという、85年に欧州の学者らが提唱したものの解明されなかった超難問がABC予想だ。

 望月さんは「宇宙際(うちゅうさい)タイヒミュラー」という新しい理論を構築して、この予想が正しいことを証明した。「宇宙」とは、足し算やかけ算など数学の道具が入ったいわば舞台。従来の数学はひとつの舞台の上で計算や証明をしたが、新理論は複数の舞台を作り、それらを自在につないだと説明される。

 別の国があることを知らない国が従来の数学だとしたら、望月さんは外国の存在を伝え、その間を行き来する国際人、といったところだろうか。「未来から来た」「既存の数学の構造を破壊した」などと評される。

 「証明した」と書いたが、実は論文を公表してから9年経っても、世界の多くの数学者に認められるに至っていない。あまりに難解なためで、広く受け入れられるまでにはさらに年月がかかりそうだという。

 アインシュタインの相対性理論もそうだった。しかし今では誰もがその名を知っているし、スマホや、カーナビでおなじみのGPS衛星でも重要な役割を果たしている。望月さんの理論も、遠い未来の日常に欠かせぬものになるかも知れない。

 でも、学者にとっては、新しい発見や理論で真理に迫ることが本分であり、喜びだ。その知識は人類共通の財産になる。結果として、さまざまな課題の解決につながり、次の世界を開く可能性を秘める。

 変わった人が多そうな数学者だが、一人で数式をにらむだけでなく、仲間との議論が発展には必要だという。優れた学者たちが日常的に意見を交わせる環境は、一朝一夕にはできない得がたいものだ。

 学問の領域にとどまらない。仕事でも学校でも、皆で話し合うことが斬新な発想を生む。コロナ禍の制約を乗り越え、そんな結びつきを大切にしたい。

 無味乾燥に見える数式の向こうに、新しい「何か」に通じるきっかけがある。そう思って、宿題、もうひとがんばり。

連載社説

この連載の一覧を見る