(社説)横浜市長選 足元からの首相不信
菅首相が市政に強い影響力を持つおひざ元の横浜市長選で、直前まで閣僚を務めていた側近が、首相の全面支援を受けながら、野党系候補に大差で敗れた。先の東京都議選に続き、極めて厳しい民意が、自民党総裁選と衆院選を間近に控える首相につきつけられた。
首相はきのう、選挙結果を「謙虚に受け止めたい」と語った。自民党が4月の衆参両院の補欠選挙・再選挙で全敗した時も、都議選で大敗した時も、同じ言葉を口にした。しかし、その後の政権運営に生かされたようには見えない。このままでは、国民の信頼は取り戻せないと、知るべきだ。
市長選の争点は当初、カジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の是非だった。立憲民主党が反対勢力の幅広い結集をめざして、元横浜市立大教授の山中竹春氏を擁立。これに対し、構想を進めてきた自民党側が割れた。中止に転じた前国家公安委員長の小此木八郎氏が閣僚と衆院議員を辞職して立候補し、引き続き推進の立場の現職林文子氏との間で分裂選挙となった。
首相は安倍前政権の官房長官当時からIRの旗振り役を務め、地元横浜市は候補地として有力視されていた。にもかかわらず、今回、小此木氏支持を打ち出したのは、市民の間に反対が強いとみて、野党系市長の誕生阻止を最優先したのだろう。
IRには、ギャンブル依存症の増加やマネーロンダリング(資金洗浄)、治安の悪化などの懸念がある。推進の林氏の得票率は13%にとどまった。首相はこの機会に、IR政策全体の見直しに踏み込むべきだ。でなければ、小此木氏支援はご都合主義の極みというほかない。
本来であれば、IR誘致をどうするのか、方針を転換するならするで、党内論議を重ね、意思統一をしたうえで有権者に提示するのが、政党としてあるべき姿だろう。自民党のガバナンスもまた問われている。
選挙戦は新型コロナ対応の緊急事態宣言の下、横浜市でも感染者が爆発的に増加する中で行われた。山中氏と小此木氏との間で、IRへの対応に大きな違いはなく、政権のコロナ対策への不満や不信が、首相に近い小此木氏への逆風となったとみて間違いなかろう。首相は重く受け止めるべきだ。
当選した山中氏は、共産、社民両党も支援する、事実上の野党統一候補だった。内閣支持率が下がっても、野党の支持率は低迷が続くが、しっかりした受け皿を用意できれば、政権への批判票を呼び込めることが示された。総選挙でも有権者に認められる選択肢を示せるか、野党の協力が試される。
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- 【視点】
衆議院選挙の構図を考えてみると、野党を積極的に支持する人は少ない。やはり自公政権あるいは首相の信任投票の意味が強くなるだろう。 鍵となるのは無党派層だ。朝日新聞が8月7日、8日に実施した世論調査の結果を見ると、無党派層は47%であり、