(社説)コロナと災害 「未治療死」を防ぐには

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 9月1日は「防災の日」。関東大震災から98年になる。コロナ禍のさなかに同様の災害が起きたらどうなるか。考えたくない話だが、自然は待ってくれない。あらゆる事態を想定し、準備を進める必要がある。

 示唆に富む調査がある。

 日本医科大学布施明教授(災害医療)らが、巨大地震が起きた時に、医師や病床などの不足によって亡くなる人の数を試算したものだ。本来であれば助かるはずなのに、必要な手当てを受けられずに命を落とす「未治療死」が続出した。国の想定を大きく超える事態になる恐れがあるという。

 たとえば南海トラフ地震の場合、津波が襲う沿岸を中心に、最悪で約8万人の未治療死者が出る。道路が寸断されてけが人を搬送できない、時間を追うごとに増える来院者にスタッフが対応しきれない――など、地域の状況と限られた医療・救急資源を数値化して導き出した。医療機関の少ないところほど厳しい数字となった。

 未治療死は95年の阪神大震災以降、重要な課題として認識されてはいた。布施教授は「しかしこれまでは、発災からの時間経過も踏まえた、俯瞰(ふかん)した想定ができていなかった。今回の結果をもとに態勢づくりを考えることが必要」という。

 災害級といわれるこのコロナ下で、地震や津波時の対応を考える余裕は医療現場にはない、というのが現実だろう。それでも、災厄が重なることで起こる危機の連鎖に備えておかなければならない。

 東京都は近く、災害時の医療活動を担う災害医療コーディネーターらを対象にした研修を開く。区市町村に任命された専門医やそれぞれの役所の職員が、「コロナ感染症蔓延(まんえん)時における災害医療」をテーマに、緊急時に開設される救護所の運営方法などを学ぶ。

 搬送された患者を容体別に分け、発熱をチェックし、入院を手配し、濃厚接触者の隔離方法なども確認する。感染爆発が収まらなければやれることにも限界はあるが、さりとて手をこまぬいていていい話ではない。事前の研修があってこそ、いざという時に動くことができる。

 厚生労働省の災害派遣医療チーム(DMAT)や、民間病院が連携する医療支援班(AMAT)にも、これまでの実績を踏まえた活動を期待したい。

 一定の準備があれば死亡率は下げられる。極限状況を念頭に置きつつ、あきらめずに互いにできる役割を模索することが、一人でも多くの命を救うことにつながる。防災の日を、例年にも増して心構えを新たにする日としたい。

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