(社説)DHC側の敗訴 人権意識の欠如を問う

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 沖縄の米軍基地反対運動を扱ったテレビ番組が真実に反する内容で、市民団体共同代表の辛淑玉(シンスゴ)さんの名誉を傷つけたとして、東京地裁はおととい、制作したDHCテレビジョンの責任を指弾する判決を言い渡した。

 同社は化粧品大手ディーエイチシーの関連会社だ。DHCグループはこの番組を含めて、虚偽の情報発信や民族差別発言を繰り返し、外部から批判を受けても反省するそぶりすらみせない。企業倫理が厳しく問われる事態が続いている。

 問題になった番組「ニュース女子」は、東京メトロポリタンテレビで17年1月2日と9日に放送された。判決によると、番組は基地反対運動に関わっているのは犯罪行為もいとわない人々で、それを辛さんがあおっていると伝えていた。しかしそのような事実はなく、裏づけ取材も行われていなかった。

 DHC側は今も自社サイトで番組の動画を公表している。東京地裁は、名誉毀損(きそん)事件としては高額の550万円の賠償金の支払いとともに、同社サイトに謝罪文を掲載し、動画を公表している間はこれを削除・改変してはならないと命じた。このケースに厳正に臨む裁判所の姿勢を示したといえよう。

 既に放送倫理・番組向上機構BPO)が2度にわたって、放送倫理に照らしても、また人権の観点からも、番組には問題があるとの見解を示している。BPOおよび司法の判断を受け入れ、DHC側はただちに動画を取り下げるべきだ。

 裁判は、名指しされた辛さん個人が原告となって争う形となったが、番組は基地反対運動を不当におとしめるものだった。さらに出演者らは辛さんが在日コリアンであることをとらえて揶揄(やゆ)・攻撃する発言もしており、BPOは「人種や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠いていた」と指摘している。実際、番組を機に辛さんは激しい誹謗(ひぼう)中傷を受けており、ヘイト番組とのそしりは免れまい。

 特定の人種や民族への差別をあおるヘイトスピーチの解消をめざす法律の施行から5年。理念の実現はなお遠く、だからこそ歩みを緩めてはならない。

 DHCの吉田嘉明会長は在日韓国・朝鮮人に対する差別的な文章を自社サイトにたびたび掲載。これを問題視し、同社と結んでいた災害時の連携協定などを解消する自治体が相次ぐ。同社と取引をしている企業に対し、関係を見直すよう求める消費者の声も強まっている。

 人権をないがしろにしてビジネスは成り立たない時代だ。行政も企業も、市民から厳しい目が注がれていることを常に意識して、行動する必要がある。

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