(フォーラム)嫁、主人、家はいま:2 結婚したら

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 結婚後はパートナーとバラ色の新生活――。というのが理想かもしれませんが、実際は2人を取り巻く周囲との関係などで、うまくいかない場合もあるようです。アンケートには「嫁」「主人」という、性別による役割分担に関する悩みが多く寄せられました。

 ■根強い家制度の名残 立命館大教授・二宮周平さん

 家を制度として制定したのは1898年の明治民法です。政治的な目的の一つに、天皇制の国家体制を支えることがありました。家長である戸主と家族の関係を天皇と国民の関係になぞらえたのです。天皇は国の家長である、と。こうした考えは、親孝行などを説く教育勅語などを通じて浸透していきました。

 戦後の民法改正で家制度は廃止されました。それなのに、いまも慣習などに「家」という意識が残っているのは、戦後改革で民主主義の徹底が不十分だったからでしょう。戦後、GHQからは家制度の廃止を求められましたが、政治家や資産家の中には強い抵抗がありました。彼らを説得するために、ある民法学者は「制度としての家はなくなるが、家族の共同生活は存続し、家族は同じ氏を名乗る」と説明しています。氏が家と同じ役割をするから大丈夫だ、ということです。当時、ある憲法学者はこのことを見抜いて、「家破れて氏あり」と批判しました。

 その結果、氏は個人の呼称になったはずなのに、実態は男系の氏の継承という家制度の名残として存在し続けています。選択的夫婦別姓に反対する人たちの中に、「国のあり方が変わる」という意見があります。家制度が廃止された以上、国のあり方と氏を結びつける合理的根拠は何もないのに、そうした感覚は脈々と続いています。女性は結婚すると男性の家に入るという意識も残っています。今は結婚すると夫婦の新しい戸籍をつくるのに、「入籍」という言葉はなくなりません。心理的支配や従属関係が続いています。

 家制度のもとで、国民に家父長制的な意識が浸透してしまったことも大きいでしょう。明治民法で妻は「無能力者」とされ、働くには夫の許可が必要でした。家制度の廃止に伴い、新しい家族像とされたのは、対等な夫婦を中心とする家族でした。ところが、女性の働く場所は保障されず、高度成長期には性別役割分業が固定化されました。経済的に自立できなければ、どうしても立場は弱くなります。対等な夫婦関係を実現するためには、社会の制度も変えなければいけなかったのです。

 ■「呪い」断ち個人を尊重 作家・翻訳家、松田青子さん

 私の両親はともに地方の出身で、私自身も地方で育ちました。小さな頃から親戚の集まりなどで、女性だけが台所で働いていて、男性たちはあぐらをかいてお酒を飲んでいる光景を見てきましたが、ずっと違和感がありました。

 昔は結婚後の女性が子どもができなかったら実家に帰される、といった話が当たり前のようにあり、そうした話があまりにひどかったので、「結婚」というものにいいイメージを持ったことがありませんでした。なので、自分自身も結婚せずに事実婚のまま子どもを産みました。そのときに感じた社会への違和感をまとめたのが、最新のエッセー集「自分で名付ける」(集英社)です。

 ただ、都会が先進的かと言えばそうでもなく、度重なるセクハラパワハラなどの問題もあります。

 いずれにせよ、こうした違和感の背景には、根強く残る家父長制があると感じます。現代の家族の形はさまざまなのに、男性が仕事・女性が育児を担うという形が「普通」です。現政権もそれを「普通」にしたいがため、実際に生活をしている人たちそれぞれの「普通」を認めていないことが、生きづらさの大きな原因だと思います。

 そうした生きづらさを断ち切るには、政治がやるべきことをやるのが不可欠だと思います。選択的夫婦別姓同性婚、ひとりで生きることを選んだ人へのサポートなど、国がさまざまな生き方を認め、福祉を含む制度を抜本的に変えなければならないのではないでしょうか。

 個人としては、社会にはびこる(家父長制や男女の役割意識といった)「呪い」を断ち切って、下の世代がそれを再生産せずに生きていけるように気をつけていく。当人たちの意思に反して、周囲が「嫁」「主人」などのカテゴリーに押し込め、そのカテゴリーへの固定観念通りに扱っていいと考えるのは雑すぎます。

 個人個人の意思を尊重し、それぞれがその場にいやすい形を模索することにもっと心を砕いた方がよいし、それぞれの生き方にあった選択をするのが当たり前になることが大切だと思っています。

 ■世界の見え方に男女差 教育社会学者・知念渉(あゆむ)さん

 小さい頃から母親が「男はいいねぇ」「なんで女だけ、こんなかねぇ」と愚痴っているのを聞いていましたが、特にジェンダーを意識することなく大人になりました。

 結婚後、妻が体調を崩していたこともあり、僕が家事をするようになりました。その時に「料理が出来ない」と思い込んでいる自分に気付いたんです。「やらなくて当たり前」と思うようになっていたのはなぜなのか、と考えました。

 子どもが小さい頃、何度かベビーカーを押して子連れで出張しました。男性が子どもを連れていると周りが優しい。一方、女性がベビーカーを押していると嫌な顔をされた、という経験をよく聞きます。僕も年配の方から舌打ちされたことがありますが、女性はそういう経験の頻度がそもそも多いだろうし、強気ではいられないのでは。だから、男性が女性と同じことをしても、違う経験をしているのだと思うんです。

 7歳の娘と5歳の息子がいますが、子どもを見ていても「世界の見え方が男女で違う」と感じます。娘はクラスの男の子から「女のくせに」と言われ、怒っていたことがありました。言葉にはできなくても、「女」というカテゴリーに当てはめられて馬鹿にされている、ということに気付いたのでしょう。

 一方、息子は幼稚園で「戦いごっこ」を学んできて、性規範を学ぶ場は家庭だけではないんだなと痛感しました。男の子にジェンダー不平等を意識させるのは難しいな、と思っています。

 家庭内でも男性優位になりやすいのは、小さな頃からの積み重ねも理由の一つなのでは。家庭では具体的な問題からスタートし、ちゃんと話して解決していくことが大事だと思う。男性はそれに気付けば変えられるのに、女性は結婚後に「この人は話して問題を解決しようとしてくれる人じゃない」と気付いても、女性の意思だけでは変えられない。それは不平等だな、と思います。

 世界の見え方が変わることで過去の自分を反省することも多くなりました。反省することが多いのはつらいけれど、裸の王様にならずにすむのは良かったな、と思います。

 ■刷り込みの絶望感/墓はどうなる

 アンケートに集まった声の一部を紹介します。そのほかの声もhttps://www.asahi.com/opinion/forum/139/で読むことができます。

 ●「主人」だからと判断任される

 「主人」という理由で、家の対外関係(ローン、法的手続きなど)一切の判断を任されてしまった。(神奈川県 50代男性)

 ●「長男の嫁」だから当然?

 夫の父親が施設に入所したとき、仕事で病院の付き添いができないと言ったところ、施設の方に「長男のお嫁さんなんでしょ」と非難された。親の面倒を見るのは長男の嫁の仕事、やって当たり前のことという風に聞こえた。(北海道 60代女性)

 ●家事したら「いい旦那」

 夫とは同じ職場の同期で、勤務時間や収入もだいたい同じだが、夫が家事をしていると「いい旦那さん」「優しい」「嫁を甘やかしすぎ」などと周囲から言われた。意味不明。(千葉県 30代女性)

 ●学校の対応、母より父

 「男親が出ていくと学校の対応も真剣になる」ということを実感した。子どもと学校の問題については夫と情報共有していたが、問題を把握して対応策を考えるのはほぼ私だったのに。(東京都 50代女性)

 ●持ち物勝手に使われる

 夫の実家での同居は当たり前のこととして夫が決めた。夫の祖母が寝たきりになりかけたとき、義母はこちらが介護する前提で退院を決めようとした。個人の持ち物も、夫の母、祖母・妹たちが勝手に使う、持っていってしまう。(群馬県 60代女性)

 ●都合よく役割押しつけられる

 夫や夫の実家に、都合よく昔からの嫁としての慣習と、現代の女性としての役割を押し付けられる。夫の収入が少なくなっているので子供が小さくても嫁は働かなければいけないが、それは「今はみんなそうだから」という。その割に家事を手伝わない夫のことを義母に訴えても注意しない。現代女性の苦労を全く知らないくせに都合よく立場を入れ替え嫁に押し付ける。(静岡県 30代女性)

 ●対等ではなかった夫婦関係

 夫が私のことを家庭外で「ヨメ」と喜々として話していたのが不愉快だった。夫は妻の私を対等と考えてくれていると思っていたが、感覚的には全く違う価値観(世間並みに妻は夫にかしずいて欲しい、家事育児は妻の仕事だ)が刷り込まれているのだなと後になって分かった。その妻の絶望感は男性にはわからないだろう。(神奈川県 50代女性)

 ●主人扱いに戸惑い

 妻の実家に行くと主人的な扱いになってしまう。料理や洗い物、片付けなどをすることが難しい。風呂の順番にも影響する。自宅でやっていたことがやりにくい。(沖縄県 40代男性)

 ●結婚で「夫の実家の新メンバー」に

 結婚とは「夫と私の2人で新しい家庭を作る」ことだと考えていた。夫と私は対等だし、互いの両親との関係も私と夫で差はないと思っていた。しかし現実は、結婚とは「夫の実家の新メンバーになること」だった。新メンバーだから、元からいる夫のほうが先輩。対等ではなくなった。そこのボス(義父母)が最優先。義父母は優しい。だけどそれは従順な新メンバーだからだ。息子と同じ、対等な人間としては見ていない。それが嫁だ。(福岡県 40代女性)

 ●結婚とは家と家との関係

 今の若者は何も分かっていない。結婚とは家と家との関係、その一族の問題。今まで守ってきた墓はどうなるのか。誰が主導権を握って管理していくことになるのか全く分かっていない。御先祖様に申し訳ないと思わないのか。(福井県 60代男性)

 ●「主人」はいやだ

 「うちの主人」という言い方が嫌いなので、「私の夫」と言うことにしています。話し相手の夫のことは「良い夫さんですね」のように、やはり「ご主人」「旦那さん」を使わないようにしています。(岐阜県 50代女性)

 ◇10年近く前に男児を出産したとき、知人から「これで家系が安泰」と言われ、驚きました。夫婦間ではそのような意識はまったくなかったので「もし女の子だったら」とモヤモヤしました。

 「家」意識は世代や地域によって差があるのではと予想していましたが、アンケートからは都会の若い世代も多くの人が悩んでいることが見て取れました。

 また、「話し相手の夫のことは『ご主人』か『だんなさん』という呼び方しかできないことに違和感がある」「入籍という言葉がテレビでいまだに使われる」など社会の中の言葉遣いを指摘する意見も多く寄せられました。価値観は多様なので、それぞれの思いに合った生き方を、お互いが当たり前に選択できるように模索することが大切なのではと感じました。小林未来

 ◆記事は、小林未来、田中聡子、前田朱莉亜、山本奈朱香が担当しました。

 ◇来週19日は「パラリンピック 可能性と課題」を掲載します。

 ◇フォーラムアンケート「出生前診断へのお考えをお聞かせください」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施中です。

 

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