(社説)入管内の死 遺族に誠実に向き合え

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 同様の不祥事を二度と起こさない。その意思が本当にあるのか、強く疑わせる対応だ。

 名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが3月に病死した問題で、本質に向き合おうとせず、組織防衛に走る法務・入管当局の姿勢に、遺族らが不信を深めている。

 ウィシュマさんを撮影した監視カメラの映像が、亡くなる前の2週間分残っていた。入管庁はこれを2時間に編集し、妹2人に先月開示した。ところが、そこに映る衰弱著しい本人の姿と非人道的な職員の振る舞いに衝撃を受けて、視聴は途中で取りやめに。先週続きを見るはずだったが、2人が求めた代理人弁護士の同席を同庁が拒否したため、膠着(こうちゃく)状態に陥った。

 自由を拘束する施設の最大の責務は、収容している人の生命と健康を守り、社会に送り返すことだ。だが体調不良を訴えるウィシュマさんの声は受け流され、ついに死に至った。入管側に極めて重い説明責任があるのは言うまでもない。

 映像はその一助となるものだが、外国から急きょ駆けつけた遺族がただ見ても、状況を正確に理解し、評価するのは容易ではなかろう。精神面の不安も踏まえ、信頼できる弁護士の立ち会いを望むのは当然だ。

 しかし当局は、遺族の心情を思って今回は特別な配慮で視聴を許したとの立場をとり、同席を拒む理由として保安上の問題や死者の尊厳を挙げている。

 およそ納得できるものではない。映像は居室内のもので、保安上のリスクは考えにくく、何よりいま問われているのは、ウィシュマさんの「尊厳」を入管がどう考え、処遇したかではないか。その実態が精査されるのを恐れ、理由にならない理由を並べているとしか見えない。

 遺族側は死亡の経緯に関する行政文書の公開も求めていた。これについても、職員の勤務日誌や、ウィシュマさんと支援者との面会簿など約1万5千枚が、警備への影響や個人情報などを理由に、ほぼすべて黒塗り状態で「開示」された。遺族はあらゆる情報へのアクセスを断たれたに等しく、役所をあげて不信の上書きをしていると言うほかない。

 法務行政を担う上川陽子法相の見識を疑う話は他にもある。

 その一つが再発防止のために設けた検討チームだ。トップが入管庁の部長だというからあきれる。名古屋刑務所での受刑者死亡や大阪地検による証拠改ざんの事件では、多くの外部識者の参加を得て組織や制度の改革に道筋をつけた。今回の生ぬるい措置は、上川氏が問題の深刻さを理解していない証左だ。

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