(社説)自民党総裁選 安倍氏忖度 世論と乖離

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 国民の信を失った末に、退陣に追い込まれた菅首相の後継選びだというのに、あまりに内向きに過ぎないか。国会議員票の「数」を求めて、有力者への忖度(そんたく)を競うようでは、世論との乖離(かいり)を埋めることはできない。

 あさって告示される自民党総裁選は、石破茂元幹事長が立候補を断念したことで、岸田文雄政調会長高市早苗総務相河野太郎行政改革相の3氏が争う構図がほぼ固まった。

 3氏はすでに、各分野の政策を発表しているが、これまでのところ、最大派閥の細田派に強い影響力を持つ安倍前首相らにすり寄り、持論を封印したり、軌道修正したりしたとみられる動きが目立っている。

 岸田氏は当初、森友学園をめぐる公文書改ざん問題について「国民が(調査が)足りないと言っている。国民が納得するまで説明を続ける」と述べていたが、安倍氏が高市氏を支援する意向を示した後、「再調査は考えていない」との立場を明確にした。自衛隊明記を含む改憲4項目の発議に意欲を示したり、女系天皇に「反対」を明言したり、安倍氏と同じ考えであることを強調する場面も目立つ。

 一方の河野氏も、森友問題の再調査は「必要ない」といい、かつて認めていた女系天皇の検討については、安倍氏との面会後、触れなくなった。当面の原発再稼働の必要性を指摘したことで、「脱原発」の持論をトーンダウンさせたのではないかとの受け止めも広がった。

 もともと安倍氏に政治信条が近い高市氏の主張は、アベノミクスを受け継ぐ経済政策をはじめ、敵基地攻撃能力の保有や改憲など、安倍氏の政策とほぼ重なる。首相就任後も靖国神社参拝を続ける姿勢をみせるのも、保守色の強い安倍氏支持層を意識してのことだろう。

 7年8カ月に及んだ安倍長期政権の弊害は明らかで、菅政権が1年で行き詰まったのも、コロナ対策の失敗だけでなく、前任者の功罪を総括することなく継承したことに一因がある。

 今回の総裁選はまさに、「安倍・菅政治」全体を問い直すものでなければならない。直近の朝日新聞の世論調査では、次の首相が安倍・菅路線を「引き継がない方がよい」と答えた人が58%で、「引き継ぐ方がよい」の28%の倍だった。

 安倍氏主導の9条改憲に異論を唱えたり、森友問題の再調査を言明したりするなど、安倍路線とは一線を画してきた石破氏は河野氏支持に回るという。安倍氏の隠然たる影響力に抗して過去にけじめをつけ、国民に開かれた論戦を深めることができるか、各候補の力量が試されるのはこれからだ。

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