(社説)ロシア下院選 進む民主主義の形骸化

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 いまのロシアの選挙は、民意の審判を仰ぐものではなく、政権が望む政治環境を整える機会に過ぎないということか。

 先日の下院選で、与党「統一ロシア」が70%を超える議席を獲得した。だが内実を見れば、なりふりかまわぬ反政権派への締め付けの結果だった。

 政権が照準を合わせるのが、2024年の次回大統領選だ。昨年の憲法改正で3選禁止に例外を設け、プーチン氏が36年まで続投できる道を開いた。

 安定した状況で大統領選を迎えるために、今回の下院選で与党が圧勝することが最優先課題だった。年金改革や経済低迷で与党の支持率が2割台に落ち込むなか、反政権派への圧迫を徹底的に強めていった。

 象徴的だったのが、政権批判の旗手ナワリヌイ氏への弾圧だ。神経剤が使われた昨年の毒殺未遂事件には、治安機関が関与した疑いが強い。ナワリヌイ氏は回復後に逮捕され、いまも収監されたままだ。関連団体も過激派組織に指定され、活動停止に追い込まれた。

 政権の思惑通り、統一ロシアは今回圧勝した。だが前回16年の選挙よりも議席を減らしたことは、有権者の不満が根強い実態も浮き彫りにした。

 政権は24年に向けて、言論や報道の自由を狭め、ネット規制をいっそう強める事態が懸念される。すでに昨年来、独立系メディアも次々に「外国の代理人」に指定され、活動を制限されている。

 問題の根幹にあるのは、民主主義の理念を軽視し、自身の権力維持を最重視するプーチン氏の姿勢だ。

 プーチン氏は今年初め、ナワリヌイ支持者らによる反政権デモを批判した際、旧ソ連崩壊後の混迷の時代に言及した。その当時を引き合いに、「国家の安定を乱す試み」は危険である、と警告した。

 あたかも国家と自分を同一視しているかのような語り口に、プーチン氏の胸中が映っていたのだろう。ここまで独裁色が強まるなかでは、後継者も育ちようがない。

 前向きな将来像を示す代わりに、欧米をはじめとする外敵の存在を強調して国民をまとめる手法も、若い世代には次第に通用しなくなってきている。

 世論に正面から向き合わずに選挙結果さえ操作の対象と考えるような政治は、プーチン氏が唱える国家の安定とは長期的には両立しえない。

 旧ソ連では、選択の自由を奪われた国民の間に無力感や無関心が広がり、それが国力の衰退、果ては体制の崩壊につながった。30年前の歴史を思い出させる昨今のロシアの状況だ。

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