(パブリックエディターから 新聞と読者のあいだで)若者目線で政治問う覚悟を 小沢香

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 家のポストに国会議員のカラフルなチラシ(国政報告)が入り始めました。自民党総裁選が終わると、4年ぶりの衆院選の季節です。

 投票率は低迷し、前回2017年衆院選は53・68%、直近19年の参院選は48・80%。若い世代は18、19歳の6割、20代の7割が投票に行っていません。「選挙離れ」をただ嘆くのは簡単で、私も記者時代は「有権者の○割の審判しか受けていない」などと書いて終わっていました。

 ただ、若い人たちが、例えば性的少数者や在留外国人の人権、環境問題などに声を上げる姿は、ネットでリアルで、よく目にします。コロナ禍で世の中にもの申したい人も相当いるでしょう。2年前の参院選後の記録を探すと、読者から「投票に行かない若い人の思いも探ってほしい」などの声が届いていました。

 若い人が投票しないのはなぜなのか。前回衆院選後の意識調査(明るい選挙推進協会)を見ました。投票を棄権した18~29歳が挙げた理由は多い順に「仕事があったから」「選挙にあまり関心がなかったから」(いずれも約3割)、「政党の政策や候補者の人物像など違いがよくわからなかったから」(2割)と続きます。さらに同じく2割、若者の5人に1人が挙げた理由を見て、私は一瞬胸が詰まりました。

 「自分のように政治のことがわからない者は投票しない方がいいと思ったから」。他世代よりも際立っています。この世代の子を育てた親として、また報道に携わってきた者として、毎日の生活から政治を遠ざけ、投票を個人のモラルに帰してきた罪を思いました。

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 記者たちはこの選挙で若い人にどう向き合うのでしょうか。ヒントを探して社内を歩いていると、ちょうど学生グループから「若者は政治との接点がないのと同じぐらい、メディアにも触れていないんです!」と逆に声をかけられたという若手記者に遭遇しました。相手は30歳以下の「U30世代」が政治を身近に感じられる活動をする「NO YOUTH NO JAPAN(NYNJ)」。今月半ば、コラボ企画のためにメンバー4人と部を超えた記者有志11人が顔を合わせたオンライン会議を傍聴させてもらいました。

 NYNJ代表の能條桃子さん(23)はこう本音を語ります。

 「選挙報道を見ても、派閥の争いや選挙区の動向、ここが一番競っていて、というような情報が多く、感情を動かされて『だから私も選挙行かなきゃ』って思うきっかけがないな、って。みんな『この先80年生きてく自信がないな』とか『子ども産みたいと思わないよね』と言っていても、何でなのかが分からない。一緒に考えて解像度が上がって、選挙に行こうかな、と共感できるコンテンツができたらうれしいです」

 記者たちが反応しました。政治部の野平悠一記者(28)は「自民党の二階(俊博)幹事長を担当。いま胸にグサリときた。『このままじゃまずい』と思っている政治家もいる。政治と国民の溝を考えたい」。東京社会部の藤野隆晃記者(27)は従来の選挙報道が「今の具体的な課題」に引っ張られがちで、「もっと若者の将来の不安みたいなものをすくい上げられないか」と言います。

 大阪経済部の栗林史子記者(32)は、自身も含め若い人はお金、将来の年金や投資に関心が高いと感じているそうです。「でも大事な予算や税の話は悲惨なほど読まれない」。伝える側の悩みを共有しました。

 2時間に及ぶ議論で重要課題に挙がったのが「上から目線」をどう克服するか。さらに、そもそも投票に行く人は「自分の一票を何に対して入れているの?」。そんな根源的な問題提起もありました。

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 他にも名古屋報道センターでは20代の記者たちが、コロナで生活や将来設計が一変した若い人の目から政治を描こうと準備中。SNSを活用したプロジェクト「#ニュース4U」では、読者からの疑問、例えば「世襲議員はなぜ多い?」「国会議員は毎日何をしているの?」などに答える企画を考えているそうです。

 若者の目線で記事を書くことは、今の政治をやさしく通訳して終わるものではない、と思います。例えばNYNJがU30の「モヤモヤ感」として挙げるのは、正社員として働きたい▽お金▽メンタルヘルス性教育▽難民問題▽アニマルライツ▽気候変動など。多くは既に世界が共有する価値観であり課題でしょう。与党か野党か、というイデオロギー対立にも単純には当てはまりません。

 衆院選では、政党がいま勝つために示す公約や争点を報じることになるでしょう。でも10年後は? 環境と経済の曲がり角にある社会を背負うのはこの世代です。全世代が参加して設計図を作り、支え合って政策を実現できるか。報道する側は若い人に芽生えた「政治未満」の思いを可視化することで、政治家、政党、政治参加のあり方を一から問い直す覚悟が問われていると思うのです。

 ◆おざわ・かおり 1989年入社。地域報道部、「声」編集長、フォーラム編集長などを経て社員の立場でパブリックエディターを務める。

 ◆パブリックエディター:読者から寄せられる声をもとに、本社編集部門に意見や要望を伝える

連載パブリックエディターから 新聞と読者のあいだで

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