(社説)部落地名裁判 差別許さぬ意思 共有を

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 出生地や住む場所で人を差別することを許してはならない。司法の判断を機に、この意思を社会で改めて共有したい。

 被差別部落の地名リストをネットに公開し、書籍を出そうとした川崎市の出版社とその運営者に、東京地裁はリストの削除と出版禁止を命じた。部落解放同盟と被差別部落出身の約230人の訴えを大筋で認めた。

 焦点は、地名の公表が人権侵害に結びつくかどうかだった。判決は、「個人の住所や本籍地の情報をリストと照合することで、被差別部落とされた地域にあることがわかる」としてプライバシー侵害を広く認定。結婚、就職での差別的な取り扱いや中傷など、重大な被害につながる可能性があるとした。

 出版社側は研究や表現の自由をたてに反論したが、運営する男性の挑発的な発信を見ても、リスト公開は差別を受けてきた地域をたださらす行為でしかない。判決が公益目的は認められないとし、男性に賠償を命じたのも当然だろう。

 一方、地名リストのうち6県分については公開が禁じられなかった。各地から裁判に加わった原告のうち、自らの情報を公表して活動してきた一部の人について、プライバシー侵害が否定されたためだ。

 原告の背後には、名乗り出ることをためらう多くの人たちがいる。それを思うと地裁の判断は納得しがたい。原告側は控訴する方針で、高裁ですべて救済する手立てが探られるべきだ。

 出版社側は今回、戦前に作成された「全国部落調査」の復刻版の発刊をうたった。1970年代には、地名リストの図書「部落地名総鑑」を企業などが購入し身元調査などに用いていたことがわかり、社会問題になった。これには政府が図書を回収、焼却して対処してきたが、ネットによる拡散という新たな課題が生じている。

 東京法務局は16年、出版社側に掲載中止を「説示」。18年には法務省が各地方法務局に対し、被差別部落の識別情報について「削除要請の対象にすべきだ」と通知した。強制力はないが、通信事業者などの協力も得ながら、一つひとつ対応していく必要がある。

 被差別地域の生活環境は、国が02年春まで33年にわたり行った同和対策事業などで、一定程度改善された。しかし、差別や偏見は根強く残っている。

 16年末に成立・施行された部落差別解消推進法は、部落差別のない社会の実現をうたう。相談体制や教育・啓発の充実を掲げるが、現に起きている問題にどう生かすか。憲法が定める法の下の平等の実現へ、決意と行動が問われている。