(社説)自民新総裁に岸田氏 国民の信を取り戻せるか

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 衆院選が直後に控える異例のトップ選びとなった自民党総裁選は、決選投票の結果、岸田文雄政調会長河野太郎行政改革相を破って選出された。

 菅首相の退陣表明前、いち早く名乗りを上げた岸田氏は「政治の根幹である国民の信頼が大きく崩れ、我が国の民主主義が危機に陥っている」との現状認識を示した。7年8カ月に及んだ安倍長期政権と、1年で行き詰まった菅政権の「負の遺産」にけじめをつけ、国民の信を取り戻せるか、その覚悟と実行力が厳しく問われる。

 ■「党再生」には程遠い

 4氏が立候補し、「本命」不在といわれた総裁選。一般の有権者に感覚が近いとされる党員・党友投票の行方が注目された。河野氏は44%と、29%の岸田氏を上回ってトップに立ったが、国会議員票と合わせた得票は岸田氏を1票下回り、地方票の比重が大幅に減った決選投票で、議員票の3分の2を集めた岸田氏に引き離された。

 地方票で大きくリードし、「選挙の顔」選びを重視する議員票を呼び込む流れをつくりたいという河野陣営の思惑は不発に終わった。1回目の投票で高市早苗総務相に入れた議員票114票の行方が、岸田氏勝利のカギを握ったといえる。

 今回の総裁選には、高市氏に加え、野田聖子幹事長代行が立候補し、男女同数の論戦では、子育て支援などに従来以上の光が当たった。当選3回以下の中堅・若手議員が派閥横断で集まり、派閥の意向に縛られず、個人の判断で投票先を選ぼうという動きもあった。

 しかし、帰趨(きすう)を決めたのが結局は、永田町の中の数合わせであり、安倍前首相ら実力者の意向に左右されたというのでは、岸田氏が当選後のあいさつで力を込めた「生まれ変わった自民党」というには程遠い。

 ■安倍氏の影拭い去れ

 実際、安倍氏は、今回の総裁選の「陰の主役」といってもいい存在だった。当初、立候補も難しいとみられていた高市氏が、河野氏を上回る議員票を獲得できたのも、安倍氏によるてこ入れがあってこそだ。

 最大派閥の細田派内にとどまらず、自身の首相時代に初当選した若手議員らにも影響力を保つ。自らに批判的な石破茂元幹事長とスクラムを組んだ河野氏の当選を阻むため、決選投票を経ての岸田氏勝利に一役買ったというのが専らの見方だ。

 懸念されるのが、岸田氏が総裁選の最中、安倍氏に配慮し、その歓心を買うような発言を繰り返してきたことだ。

 森友学園をめぐる公文書改ざん問題では、「国民が(調査が)足りないと言っている」といいながら、再調査を否定。推進の立場だった選択的夫婦別姓も慎重姿勢に転じた。安倍氏が旗を振った自衛隊明記を含む改憲4項目の発議に意欲を示し、敵基地攻撃能力の保有も「選択肢」とした。女系天皇への「反対」も明言した。

 これでは、負の遺産の清算どころか、政権運営全般に安倍氏の影響力が強まらないか、先が思いやられる。

 岸田氏は従来の新自由主義的な経済政策が格差拡大を招いたとして、成長と分配の好循環による「新しい日本型の資本主義」を掲げる。緊急事態宣言の解除で、感染対策と経済活動の両立に難しいかじ取りを迫られるコロナ対策では、最悪の事態を想定し、自ら国民に丁寧に説明するという。安倍・菅政権の反省を踏まえた政策を推進するなら、安倍氏の影響力は拭い去らねばならない。党役員と内閣の人事が試金石となる。

 ■選挙前、国会で論戦を

 岸田氏の公約の柱の一つが、党改革だった。役員に中堅若手を大胆に起用し、権力の集中と惰性を避けるため、役員任期は1期1年で連続3期までとした。小選挙区制の導入で党本部の力が格段に強まったのに、党運営の改革が手つかずだという認識はその通りだ。この際、党の新しいガバナンスづくりに真剣に取り組んでほしい。

 「政治とカネ」の問題では、丁寧な説明と透明性の確保を約束した。ならば、地元広島を舞台にした参院選広島選挙区での大規模買収事件で、党が河井案里氏側に渡した1億5千万円の使途について、党独自の厳しいチェックを行うことから始めるべきだ。

 安倍・菅両氏には、国会論戦を避け、説明責任をないがしろにする姿勢が顕著だった。野党や政権に批判的な人たちを敵視し、分断もいとわない。専門知を軽視した、独善的な意思決定も少なくなかった。

 政治への信頼回復に向け、岸田氏はまず、真摯(しんし)に説明を尽くす姿を国民の前に示すべきだ。その第一歩として、週明けに召集される臨時国会で提案がある。首相に選出された後、所信表明演説代表質問だけにとどめず、野党が求める予算委員会か、十分な時間をとっての党首討論を開いてはどうか。来たるべき総選挙を前に、与野党の対立軸を堂々とみせてほしい。

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