(社説)滋賀県警 冤罪の上塗り検証せよ

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 無罪が確定した人について、警察が改めて犯人だと名指しする書面を作成し、裁判所に提出する。信じがたい行為であり、通り一遍の謝罪で済まされる話ではない。経緯のしっかりした検証と説明が必要だ。

 滋賀県の病院の看護助手だった西山美香さんは、患者の人工呼吸器をはずした殺人の疑いで逮捕・起訴された。懲役12年の有罪判決を受けて服役した後、裁判のやり直し(再審)が認められて、昨年春に無罪が確定した。その西山さんが国と県に損害賠償を求めた民事裁判で、県側の実務を担当する県警が提出したのが問題の書面だ。

 県警は請求を棄却するよう求めるなかで、「被害者を心肺停止状態に陥らせたのは原告(西山さん)」と断定していた。

 無罪判決は患者が病死だった可能性に言及し、「取り調べた警察官が西山さんの恋愛感情を利用して虚偽の自白を誘導した」と指摘したが、書面は「誘導はありえない」と反発。さらに、裁判長が法廷で「取り調べや証拠開示などが一つでも適切に行われていれば、逮捕・起訴はなかったかもしれない」と発言したことについても、「承服しがたい」と論難している。

 刑事裁判と民事裁判は別の手続きで、県警が西山さん側と争うこと自体に問題はない。とはいえ、一連の経緯を考えれば許されない主張であるのは明らかだ。こんな書面がなぜ作られ、そのまま提出されたのか。

 県の規定では、県警が起案したものを県庁の関連部署が決裁する決まりになっているのに、これが守られなかったという。だが手続きミスをうんぬんする前に、問われるべきは県警の人権意識の欠如である。

 三日月大造知事が急きょ会見して謝罪したのに続き、県警の滝沢依子本部長も先月28日の県議会本会議で「西山さんをはじめ関係者の心情を害した」「書面の表現に不十分な点があったため、訂正する」と述べた。

 これもおかしい。「不十分な点」ではなく「誤り」ではないのか。本部長はまた、書面の作成から提出に至る過程を尋ねた議員に、民事裁判が続いていることを理由に「答えを控える」と繰り返したが、理由になっていない。西山さんに対してはもちろん、県民・国民に説明責任を果たすよう求める。

 そもそも、冤罪(えんざい)を生んだことを反省し、なぜ間違いを犯してしまったかを、無罪判決後にきっちり検証・共有してこなかったことが、今回の事態を招いたといえる。滋賀県警、ひいては警察組織全体のガバナンス能力に、大きな疑問が突きつけられていることを、関係者は自覚して行動しなければならない。

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