(社説)トヨタ不正車検 順法意識を失ったのか

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 日本企業の順法意識の欠如は底なし沼の様相である。日産自動車神戸製鋼所三菱電機などの検査・品質不正に続いて、トヨタ自動車も、系列の販売会社で検査不正があったと発表した。その数は15社16店舗で計6659台にのぼる。

 排ガスの成分や速度計の検査を省いたり、パーキングブレーキやヘッドライトの検査結果を改ざんしたりしていた。顧客に約束した点検をせずに対価を受け取るとは詐欺的である。自動車の不具合は人命に直結する。その責任より利益を優先するなど、もってのほかだ。

 販売店に対する指導が問われるが、不正は直営会社にも及んでいた。トヨタは自社の問題と受け止めて経緯や原因の究明を続け、社内の責任の所在も明らかにしなければならない。車検制度の信頼を揺るがす事態であり、国土交通省は厳しい姿勢で臨むべきだ。

 不正の一因と指摘されているのが短時間車検である。豊田章男社長が課長時代に担当した、徹底的に無駄を省くトヨタ生産方式の販売現場への導入に、端を発するサービスだ。

 顧客の利便性を高める工夫は歓迎だ。だが、品質が安定している部品を組み立てる工場と違い、車検の作業は車種や走行距離などで千差万別である。「45分で完了」など一律の時間を掲げれば、時間内に終えるため、作業の省略を誘発しかねないことは想定できたはずだ。

 トヨタは「すべての店舗で問題があるわけではない」とし、短時間車検は今後も続けるという。ただ、後手に回った対応をみると、懸念が残る。

 3月に愛知、7月に東京の販売店の不正が運輸局の監査で発覚した後、トヨタはようやく本格的な点検に乗り出した。作業時間の柔軟な延長の徹底や、車検獲得を競わせる表彰制度の見直しなどを進めるというが、現場が率直に繁忙を訴えられる企業風土への変革は、一朝一夕には進まない。まずは再発防止の徹底に専念する必要がある。

 若者のクルマ離れもあって自動車整備士のなり手が減り、販売店の負担増に拍車をかけているという。給与を含めた処遇改善が急務だろう。

 2兆円を超える利益を稼ぐトヨタだが、その恩恵は販売店に行き届いていない。「整備士不足は、トヨタのみならず、日本全体の大きな課題」と苦境を訴える前に、好業績の果実を取引先と分け合うのが筋である。

 コロナ禍が直撃する飲食業や宿泊業などに比べ、トヨタの経営環境は恵まれている。利益を社会に積極的に還元することこそが、日本を代表する企業には求められる。

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