(社説)侮辱罪厳罰化 広範な検討欠いたまま

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 見直しに向けた議論の必要性は理解できる。それにしても、今回の進め方は拙速に過ぎ、将来に禍根を残さないか。そんな疑問を拭えない。

 侮辱罪の法定刑を引き上げる刑法改正案を法制審議会の部会がまとめ、21日の総会を経て法相に答申されることになった。

 現在「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」となっているのを改め、1年以下の懲役や30万円以下の罰金なども言い渡せるようにするという内容だ。これに伴い、公訴時効も1年から3年に延びる。

 背景にネット社会の広がりがある。SNSなどを使った侮辱行為がエスカレートし、被害は深刻さを増している。昨年5月にはプロレスラーの木村花さんが誹謗(ひぼう)中傷を受けて自死する痛ましい事件もあり、いまの量刑は軽すぎるとの声が上がっていた。時代の変化に即した対応が求められるのは当然だ。

 ただし、どのような表現が「侮辱」とされ、国家が刑罰を科すべきかという線引きはあいまいだ。厳罰化の後、恣意(しい)的に運用されるようなことがあれば、言論・表現の自由の萎縮につながる恐れがある。

 多角的で広範な検討と丁寧な説明が必要なのに、9月半ばに法相が諮問した案を、部会は会議を2回開いただけでそのまま了承してしまった。議事録もまだ公開されておらず、市民はかやの外に置かれた状態で、手続きが進んでいる。

 刑法には同様に人の名誉や尊厳を傷つける罪として名誉毀損(きそん)罪(3年以下の懲役など)があるが、条文や判例によって、指摘された事実が公共の利害に関わり、公益を図る目的があり、内容が真実もしくはそう信じた相当の理由が認められる場合は罰せられない。また、公務員や選挙の候補者の名誉を傷つけても、真実であれば罰しないとする明文規定もある。

 言論・表現の自由に配慮したこうした定めが侮辱罪にはない。厳罰化するのであれば、免責する場合について広く意見を聞き、法律に盛り込む方向で検討を深めるべきではないか。

 国際的には、名誉や侮辱をめぐる争いは当事者間の民事手続きで解決をめざそうという流れがある。国連の規約人権委員会は11年、犯罪の対象から外すことを提起し、刑罰を科すとしても身体を拘束するのは適切でないとする見解を出した。

 今年4月には、ネットに書き込みをした者を、いまよりも簡易な手続きで特定できるように法律が改正された。こうした措置も含め民事裁判をより使いやすくして、迅速・確実に被害を救済し、違法な発信を抑止していくことが欠かせない。

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