(フォーラム)学校行事の中止、影響は

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 コロナ下で修学旅行や運動会、文化祭などが中止、延期されています。長期間体験から学ぶ機会が減った子どもたちへの影響も懸念されています。現状にどう向き合い、育ちをどのように支えたらよいのか。寄せられた声を聞きながら、識者と考えました。

 ■共感ない慰めは逆効果 教育評論家・親野智可等さん

 修学旅行や文化祭、体育祭は中止や延期になり、給食の時間はおしゃべりをせずに前を向いて食べる。友達との関わりが少なくなり、口に出さなくても、子どもたちはストレスを抱えていると思います。

 やるせない思いを親にぶつけてくることもあるでしょう。「運動会がなくて、つまんない」と子どもが話したとします。「来年があるよ」とか「その悔しさをバネに次に向けて」などと返してはいないでしょうか。大人はすぐに慰め・励まし・助言をしようとしますが逆効果です。

 子どもは今、悲しく、つらく、怒っています。それに共感がないままにこういうことを言われると、「そんな簡単なことじゃない」「この人はわかってくれない。話しても無駄だ」と感じ、話すのをやめ、怒りややるせなさをためこみます。

 まずは「残念だよね。楽しみにしてたのに」「いっぱい練習したのにつまんないね」と共感する。あるいは「練習したのにがっかりだよね」と気持ちを代弁する。そうすれば、子どもは「わかってもらえている」と感じて、気持ちをより吐き出せます。それによって、少しは気が晴れ、初めて次へ気持ちを向けられるのです。助言はそれからです。

 子どもたちが学校で体験から学ぶ機会は減りました。人間関係の勉強をしたり、自己実現したりすることも少なくなりました。これは、否定できない事実です。

 ただ、学校行事の見直しが迫られたことは、一概に悪いともいえません。たとえば卒業式。時間をかけた練習や大勢の来賓のあいさつは、本当に必要だったのでしょうか。子どものためだったでしょうか。行事などを吟味せざるを得なくなったことで、「子どもたちに本当に必要なものは何なのか」を問い直す気づきにつながったはずです。

 子どもたちも、当たり前と思っていたことの大切さを学び、限られた条件下で工夫することの必要性も学んだかもしれません。その経験が今後生きてくることもあるでしょう。

 物事にはプラス面とマイナス面があります。個人としても社会全体としても、コロナ禍でもたらされたマイナス面を自覚し、補う方法を考えつつ、同時にプラス面もみて、今後に活用していければと思います。(聞き手・才本淳子)

 ■子ども自ら考える機会に 弁護士・柳優香さん

 成長、発達の過程にある子どもたちは、去年と今、1年後でまったく違います。大人は「旅行は来年行こう」と考えられても、小6や中3の修学旅行は、来年に置き換えられません。運動会なども同じです。

 学校運営や行事について、当事者である子どもを置き去りに大人が決めてしまう傾向は、コロナ下でより強まったと感じています。子どもたちは我慢し、耐えている印象です。

 もともと日本の場合、子どもを未熟で判断能力が乏しい存在と考え、代わって大人が「よかれ」と判断して物事を決めてしまいがち。その「よかれ」は子どものためになっていないかもしれません。行き過ぎた「ブラック校則」がいい例です。

 子どもたちは、大人に聞いてほしいのです。福岡県の自治体で子どもからの相談を受けていますが、対面からコロナ後は手紙交換中心になりました。それでも相談数はひと桁増えています。驚きました。

 コロナ下での学校の特別活動をどうするか、子どもや保護者に投げかけてもいいのではないでしょうか。

 目的は何で、何をやり、何はやらないのか。形を変えて行うならどのようにするのか。話を聞く学び、意見を言う学び、折り合って物事を決めていくプロセスの学びになります。コロナ下ならではの機会です。

 運動会が縮小された神奈川県のある小学校では、4年生の児童自らが企画し、独自大会を開きました。1度失敗して大人の知恵も借り、「何のための会か」を問い直したそうです。学級対抗でなく学年を3チームに再編し、足の速い子は均等に振り分け、出たい競技に出られるように事前アンケートもしていました。

 日本は「国連子どもの権利条約」を批准しています。四つの原則の一つが、「子どもの意見の尊重(意見を表す権利)」です。日弁連のメンバーとして9月、子どもに関する包括的法律「子どもの権利基本法」の制定を国に求めました。子どもを権利の主体と認める考えがより広まってほしいと思っています。

 コロナによる制約の多い日常はしばらく続くでしょう。発想を転換し、大人だけでなく子どもと考える機会になってほしい。小学生と保育園児の保護者の一人としても、そう願っています。(聞き手・田中章博)

 ■体験による学び、支え手を お茶の水女子大教授・浜野隆さん

 文部科学省全国学力調査と一緒に行われた今年度のアンケートで、将来の夢や目標を持っている子どもの割合が減ったことを懸念しています。長期化するコロナの影響で、学校行事などの中止、延期が繰り返され、子どもたちの心の中で「あきらめ感」や「無力感」を醸成してしまっている可能性があります。

 学校の様々な活動には、協調性や人間関係の調整能力など「人と関わる力」、自己肯定感や自立心など「自分に関する力」、つまり非認知能力を高める仕掛けがあります。こういった活動では、子どもたちが主体的に動く場面が多く、主体的に参加している時には強い意欲が生まれ、学校全体に活力も出てきます。

 教科学習ばかりでは、どうしても受け身の学びが増えます。主体性を発揮する場が少なくなる中で、目標を失ったり、やる気が損なわれたりすることは十分に考えられます。

 もう一つの懸念は体験の格差です。経済的にゆとりがある層は、学校外のサービスを通じて「体験を購入する」傾向があります。コロナ下で多くの学校が水泳の授業を中止しましたが、習い事で水泳をしている子どもは、できる機会があったと思います。もともと経済的な理由によって、「習い事の格差」は存在していましたが、今回「体験の格差」として鮮明化する可能性があります。

 ただし、私たちの研究では、非認知能力は社会経済状況との相関関係があまり強くありません。家庭での基本的生活習慣や親からの働きかけなどでも非認知能力は高められる。そこは強調したいです。

 感染対策をしながら、これからはできる限り学校での特別活動は実施する方向で考えてほしいと思います。今年できなかったことを、それに代わるようなもので何かできないか、複数年度でフォローしていくのも手です。学校が抱え込まずに、地域や民間団体と連携して子どもたちの体験による学びを支える形をつくっていくことも重要だと思います。

 アンケートでは「人の役に立つ人間になりたい」という回答が増えました。社会全体が困難を抱える中で、子どもたちも敏感に何かを感じとった結果なのかもしれません。こういう気持ちも受け止め、注目していきたいと思います。(聞き手・才本淳子)

 ■「学校が楽しい」、小6で5割下回る

 2年ぶりの実施となった今年度の全国学力調査と同時実施の文部科学省のアンケート。「学校に行くのは楽しいと思うか」の問いに、「当てはまる」と答えたのは小6で48.0%、中3で43.4%だった。前回と比べ、それぞれ6.0ポイント、2.4ポイント低下、小6はこの設問で初めて5割を切った。

 将来の夢や目標を持っているかも尋ねた。「当てはまる」小6は60.2%で5.7ポイント減。中3は40.5%で4.4ポイント減った。こうした変化について同省は「運動会や音楽会、職場体験など身近な目標に向けて頑張る機会が減ったため」とみる。

 同省の別の調査では、昨年度30日以上登校せず「不登校」とみなされた小中学生が過去最多だった。担当者は、コロナ下での生活リズムの乱れや学校行事の中止・延期、部活の制限などによる登校意欲の低下が背景にある、と指摘する。(田中章博)

 ■納得する説明を/前例踏襲、見直す機会

 アンケートと「#ニュース4U」への投稿の一部です。アンケートのそのほかの回答はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/143/で読むことができます。

 ●大人は出歩けるのに

 修学旅行は行けず、部活の全国大会も中止。父に「例年通りしたかった」というと「わがまま言うな」。夜遅くまで出歩いてお酒を飲む大人もいるのに、なぜ学生は今しかできない経験を奪われるのか。(愛媛県 10代女性)

 ●失われたもの大きい

 高校でクラス担任をしている。諦める子どももいるが、思い描いた学校生活ではないことへのストレスを抱える生徒も多い。貴重な3年間で失われたものは大きい。(千葉県 60代男性)

 ●工夫する大人の姿勢が大切

 大人たちが、感染対策をしながら知恵を絞ってやろうとする姿勢を子どもに見せることも大事。中止にするなら、子どもが納得できる根拠をしっかり説明することも大事だと思います。(埼玉県 40代女性)

 ●体験格差が広がった

 体験格差が広がったと感じる。私の住む地区は自営業が多く、子を旅行に連れていけない家庭も多い。経済格差や時間的余裕の違いが体験格差につながるのは悲しい。(東京都 30代女性)

 ●生徒と向き合う時間増えた

 教員です。毎年この時期は行事の準備や実施に忙殺されているが、生徒も教員もゆったり過ごすことができ、生徒と向き合う時間も増えた。前例踏襲で無駄もあったと思う。肥大化しすぎた行事を見直すきっかけになってほしい。(愛知県 50代女性)

 ●むしろラッキー

 集団行動や「みんな友達主義」が大の苦手で、行事のたびにげんなりとした気持ちになる私にとって、一部の行事が中止になったことはむしろラッキーなことでした。(東京都 10代女性)

 ●受け入れることを知った

 行事の中止などで、受け入れることを知り、違う楽しみを見つける力がついた。(京都符 40代女性)

 ●楽しそうな姿、初めて

 高校2年の娘は先日、初めて文化祭ができました。縮小し、制限が多くても、毎日楽しそう。入学して初めて見る姿でした。つまらない、行く意味ない、友達ができないというモヤモヤが無くなり、学校へ行く意欲が湧いています。(埼玉県 50代女性)

 ◇記者(50)にも中3と小6の子どもがいます。小6は、1年半に及ぶ行事の中止、縮小に学級崩壊も重なり、「学校に行きたくない」と口にしました。柳さんが触れている、運動会に代わる独自大会を児童発案で実現させた小学校の先生は「できることは何か、どうすればできるかを児童に考えてもらいたかった」そうです。子どもが主役の学びに可能性を感じました。(田中章博)

 ◇来週24日は「コロナ下の運動部活動」を掲載します。

 ◇アンケート「ロスジェネ世代、どう思いますか?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集中です。

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