(社説)熱海の土石流 なぜ命を守れなかった

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 どうして中途半端な対応にとどまったのか。行政として万全を期したといえるのか。事実の徹底解明に向けた、さらなる調査・検証を求める。

 7月の静岡県熱海市土石流被害につながった河川上流の盛り土について、市が約10年前に崩落の危険性を認識し、安全対策を命じる「措置命令」を検討しながら、見送っていたことが明らかになった。結果として、27人の死者・行方不明者を出す大惨事に至った。

 県と市がこのほど公開した文書から見えるのは、長年にわたる行政の不作為だ。

 神奈川県内の業者が静岡県土採取等規制条例に基づいて土の搬入を始めたのは07年。その量は計画の約2倍となり、市は住民の生命・財産が脅かされると判断し、11年6月に命令を出す方針を決めた。それまでに土地の所有者はかわっていたが、業者側が対策工事を始めたため、様子を見ることにしたという。

 「一定の安全性が担保されたと判断した」というのが市の言い分だ。しかし工事は間もなく止まり、業者と連絡をとるのも難しくなった。現地の見回りは続けていたとするが、とても納得できる話ではない。発災までの経緯や背景をつまびらかにして、被災者・市民に説明しなければならない。

 一連の文書からは、措置命令の検討自体が遅かったのではないか、縦割り行政の弊害で役所内で情報が共有されていなかったのではないか、といった疑問も浮かぶ。条例の不備を指摘する声も聞かれる。

 県は第三者委員会を設けるなどして、対応が適切だったか調べることにした。元の業者や所有者からの本格的な聞き取りも早急に進めるべきだ。

 国の取り組みの甘さにも目を向ける必要がある。

 盛り土は開発目的によって、宅地造成等規制法や森林法の網がかかるが、規模によっては対象外となり、多くの自治体はそれぞれの条例で業者に安全対策などを義務づけている。このため、規制の緩い地域を探して土を運び込むなど、抜け道を探る動きが絶えない。

 熱海の事故を受けて政府は、自治体任せの姿勢を改め、法律による統一的な規制をめざして有識者の検討会を発足させた。悪質業者の逃げ得を許さない方策を講じ、適切な罰則を科して抑止力を高めるとともに、埋めたり盛ったりする土を「出す」側の責任の明確化、事業内容を住民に周知する仕組みの整備なども議論してもらいたい。

 失われた命を思い、情報を隠さず、一体となって再発防止に取り組む。国と自治体が取るべき当然の対応である。

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