(社説)衆院選 対ロ外交 失敗を認めて出直せ

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 ロシアとの外交交渉の立て直しは、次の政権に課せられた難題だ。安倍元首相が前のめりに進めた末に行き詰まったマイナスからの再出発となる。

 岸田首相は所信表明演説で「領土問題の解決なくして、平和条約の締結はありません」と述べた。至極当然の言葉だが、ロシア外務省は「そのような最後通告は解決を遠ざける」と反発し、北方四島がロシア領だと認めるよう日本側に迫った。

 ロシアには領土問題を解決する意思も日本との約束を守る考えもない。逆説的には、この本音を引き出したことが安倍氏の功績だったかもしれない。

 だが、岸田氏の言動からは、展望の無い交渉を考え直す姿勢は感じられない。

 理解に苦しむのは、内閣発足時の人事で「ロシア経済分野協力担当相」を残し、萩生田経産相に兼務させたことだ。

 このポストは、5年前に安倍氏が新設した。クリミア半島の占領などを理由にロシアを制裁対象とする一方で経済協力を打ち出したという点で、対ロ外交の矛盾を象徴する存在であり、見直しは当然だ。

 安倍氏はさらに、国民や国会に何の説明もないまま四島返還の旗を降ろし、二島での決着を目指した。

 岸田氏は安倍政権で長く外相を務めた交渉の当事者でもある。不透明な経緯を明らかにし、反省の上に立って今後の方針を説明する責任がある。

 一方、立憲民主党の枝野代表は対ロ交渉の後退を批判し、四島の主張を貫くよう求めてきた。だが、単に政府の「弱腰」を批判するだけでは、思考停止のそしりを免れない。

 日本が北方四島を「固有の領土」と位置づけて一括返還を求めるようになった経緯には、東西冷戦を背景に米国が巡らせた外交戦略も含めて、未解明な点も多い。外交記録などの公開を含めた検証が不可欠だ。

 自民党政権と官僚組織が隠してきた核持ち込みなどを巡る日米密約を民主党政権が明らかにした前例も参考になろう。

 戦後76年を経てなお未解決の平和条約問題が、重要な課題であることは論をまたない。

 ロシアは日本にとって石油、ガスの重要な供給源でもある。一方で、米国と対立を深め、サイバー攻撃フェイクニュースの発信源と目されている。

 今年のノーベル平和賞欧州議会のサハロフ賞は、ロシアの人権状況に対する国際社会の懸念を浮き彫りにした。

 領土問題にとらわれるあまり、国際協調を軽んじてロシアの問題点に目を閉ざすような外交では、展望は開けない。これも安倍政権が残した教訓だ。