(フォーラム)「ロスジェネ 女性 非正規」:2 支える手は

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 どうすればいいのか。就職氷河期に社会に出たロスジェネ・非正規の女性についてのアンケートには、極めて多くの意見が集まりました。必要な公助を広げるには、声を上げ、政治を動かすことが欠かせません。それは他世代や男性を救うことにもつながるはずです。

 ■解雇された私、国政に声届けたい 社民党副党首・大椿裕子さん(48)

 「解雇された人間が国政に挑戦してもいいじゃん!」と、今回の衆院選で大阪9区から立候補しました。

 1996年に四国学院大を卒業したロスジェネ世代です。専攻は社会福祉でした。当時は施設などに就職する学生が多かったのですが、私は女性支援の仕事に就きたいと思いながら卒業後は四国で複数のバイトをして暮らしていました。社会福祉士や保育士の資格は取りました。

 年齢とともに正規雇用が難しくなる実感から焦りが生まれ、工場の派遣や障害者支援団体で働いた後、2006年、関西学院大で障害のある学生の支援を担うコーディネーターに就きました。学生の成長を間近に見られ、やりがいがありました。

 ただ、雇用は最長4年。その間に子どもを産んで休んだら、別の人に置き換えられる場合もある。非正規だと産めないかあ、と泣いたことがあります。33歳くらいのころです。

 最終年を前に、働き続けたいし私の雇用期間後も業務は必要とされ残るので、個人加入できる労働組合に入り、雇用継続を求めて大学側と団体交渉しました。忘れられないのが、大学幹部が「有期雇用は自己責任」と言ったことです。友人らも「分かってて就職したんでしょ」と。私がおかしいのかと不安でしたが、希望の職種が有期雇用の募集しかなく、選択肢がなかったのです。

 初めて労働組合に相談に行った時、「大椿さんの時は勝てないかもしれないけど、次の人は勝てるかもしれない。それが労働運動だ」と言われ、かっこいいと思いました。3年9カ月闘いましたが、結局、復帰はかないませんでした。

 でも今、非正規の処遇が以前より可視化され、世間の受け止めも変化している。非正規拡大を横に置いたままロスジェネの課題は解決できない。次の世代も同じ苦しみにあいます。恒常的業務を有期雇用にしていること自体が問題です。臨時的業務以外は原則正規にし、入り口で非正規を増やさない仕組みが必要です。

 教育現場や役所など様々な職場に非正規の人がいて、社会の土台を担っている。国会が多様な人の代表が集まる場であるなら、「クビを切られた元非正規労働者」の声を届ける人がいていいはずです。衆院選は落選しましたが、多くの人は自分の発言に価値がないと思わされているだけで、声を上げていくことができれば大きな勢力になります。(聞き手・中塚久美子

 ■「ないもの」の存在、位置づけるには 「ぼそぼそ声のフェミニズム」著者・栗田隆子さん(48)

 大学院の博士課程を中退して社会に出たのが、2002年春。就職氷河期です。これまで勤めたのは、短期の非正規雇用を含めると10社以上。正社員の経験もありますが、残業でぜんそくになり、辞めました。

 仕事が見つからなかったときに、「親のすねかじり状態」になったこともあります。「親元で暮らしているからいいじゃん」と言う人がいるけど、自分の才覚で全くお金を増やせず、親の顔色をうかがって、お小遣い交渉をする生活は、つらさがあります。

 仕事の傍ら、労働環境の改善を訴える社会運動にも参加してきました。ただ、いまは体が本調子ではなく、執筆活動が中心です。書くことで、貧困に苦しむ単身女性はあなただけじゃないと、示してきました。「ないものとされてきた存在」を、社会の中で位置づけさせるにはどうしたらいいかを考えています。

 社会保障の問題は、「夫=セーフティーネット」というように、女性は夫に養われていることを前提に作られていること。エッセンシャルワーカーやスーパーの店員など女性の賃金は安い。社会に必要な仕事なのに、低賃金というのは、「この女性には夫がいて、養われている」という勝手な想定の中で社会が成り立っているからです。そこから外れている人もたくさんいるのに。

 生活保護制度の改善を求めます。まずは、給付を世帯単位ではなく、個人単位にすること。親と住んでいると、親の年収で測られて、外されてしまうことがあります。

 貧困状態になる手前でお金を渡した方が改善しやすいと言われています。生活保護の資産要件や親族の扶養が受けられないなどの要件をゆるくしていく。究極、条件を問わない「ベーシックインカム」で、最低限の収入を保障するのはどうか。

 こうした制度を詰めていくのは、政府の部会です。ただ、そこに私たちの代表がいないんです。部会は、労働者側、使用者側、国の代表で立ち上げるけど、労働者側は連合の「偉い人」。われわれの状況をどこまで反映してくれるのか。「偉い人」には女性もいるけど、今の日本社会で偉くなれる女性は、一般の男性よりも数倍、精神的にマッチョな人が多い。病気で働けなくなった女性の立場を語るのは難しい。それを語れる人をどこまで送り込めるかだと思います。(聞き手・寺田実穂子)

 ■社会的な落とし穴、手当てを

 「生きていけるか不安」「絶望しかない」。今回のアンケートはフォーラム面でも群を抜く1172回答が寄せられ、当事者からの声が半数近くに上りました。「安楽死制度」を望む声が複数あったのが衝撃的でした。将来に絶望している人がこれほど多いことに、私たちは気付いていたでしょうか。「きちんと対策を書くべきだ」という親世代からの意見もいただきました。

 一方で「努力が足りない」「当人の選択だ」という声も少数ながらありました。彼女らの苦境は、いわゆる自己責任に帰すべきなのか。

 そうではありません。理由は明確です。日本では新卒一括採用が主流で、社会に出る時の景気が、生涯の雇用を左右する。男女の雇用差別により、女性の非正規率は男性より30ポイントも高く、正規との待遇格差は身分差別的ですらある。

 さらに社会保障制度は昭和の家族モデルを前提とし、単身者が多い現状に合っていない。ロスジェネ、非正規、女性の三つの輪が重なったところに、いまの日本が抱える最大の問題の一つがあります。社会的に落とし穴が仕掛けられていたといってもいい。

 なぜ、一部の世代を特別扱いするのか。男性も若者も苦しいんだ。そんな声も寄せられました。不安定雇用に苦しむ人たちは、男性や他世代にもいるのは間違いありません。しかし、みんな平等に苦しむことが答えではない。この世代の女性のために社会の変化を促せば、それは他の人々も救うことになります。

 では、どうすればいいのか。アンケートでは、「国などが生活立て直しのための対策をするべきだ」という回答が約45%に上り、「雇用の仕組み全体を見直すべきだ」が32%と続きました。自己責任ではなく、「公助」が必要です。

 二つの「支える手」を考えます。一つ目は、いわば応急措置です。いま痛みを訴える人がいる以上、非正規の待遇改善は急務です。正規雇用化と同時に、最低賃金の引き上げや同一労働同一賃金を進める。

 二つ目は、長期的な手当てです。老後の貧困を防ぐため、社会保障制度を改革する。1回目(10月31日付)で話を聞いた国際医療福祉大学の稲垣誠一教授は、75歳以上向けに「税を財源にする基礎年金」を提案します。これは栗田隆子さんの言うベーシックインカムの高齢者版と言えます。

 短期、長期どちらの対策も、大椿裕子さんのように声を上げ、政治を動かさなければ実現しません。

 一部の人に不平等を押しつけ続ければ、社会は傷み、持続可能性を損ないます。そして将来世代も同じ道をたどりかねない。この難題はすべての人が当事者であり、ロスジェネ世代は、その先頭走者なのです。

 真鍋弘樹

 ■就学から公平に/お金より孤独が怖い

 フォーラムアンケートに寄せられた声の一部です。その他の回答もhttps://www.asahi.com/opinion/forum/144/で読むことができます。

 ●「家」単位の社会保障・税制の見直しを

 シングル子無し、非正規の当事者です。転職の度に必死に仕事を覚え、まじめに働いても契約満了となればまた次の職探し。生活に足るだけの年金ものぞめないのでリタイアなどできず「老後」は無いでしょう。将来世代のためにも第3号被保険者制度に代表されるような「家」を単位とした社会保障および税制度を早急に見直し、非正規雇用のシングルでも不安を感じることなく生きていける制度に改善すべきだ。誰もが困った時に申請できるよう生活保護申請の適用条件を下げることも必要。(東京都 40代女性)

 ●介護職賃上げ、ロスジェネ採用を

 自分も1994年に新卒だったが介護福祉士で常勤の仕事を得て、今それなりの収入と安定した生活を得ている。国家資格と専門職という手に職を得る道もあるのに仕事をより好みしている人もいるのでは?と思わなくもない。だが、現在の介護職の賃金は以前よりも低いところが多いので、賃金を上げ、ロスジェネを採用して人手不足も解消することはできないだろうか。(埼玉県 50代女性)

 ●定年後の再雇用で現役世代の採用が増えない

 定年後の再雇用制度も若年層の雇用に少なからず影響を与えている。自身の職場(大手企業)では定年後も高額報酬で同じポストで再雇用されているケースもあり、現役世代の採用枠が増えない。企業も再雇用制度の運用にあたり、慎重な見直しが必要だ。(神奈川県 40代男性)

 ●貯金の仕方、教育を

 特に単身の女性が困窮すると言っているが、生活が困窮するのは、女性も男性も関係ないと思う。貯金の仕方や経済の仕組みを早くから教えて欲しい。(東京都 10代)

 ●女性に公平な制度を

 女性の社会進出には多くの不公平がつきまとっています。入試で男子学生が優遇されていることは最近明らかになったばかりですが、就職でも女性は不利で、復職も難しい。ロスジェネ世代の現状と将来の問題には公費と制度改革というアプローチを取るほかないと思いますが、それだけでは下の世代の問題が解決されません。女性が就学や就業で不公平な扱いを受けないよう、公正な制度を整えることが必要だと思います。(東京都 20代女性)

 ●当事者の互助サービスを

 単身女性同士の互助サービスなどがあれば家賃軽減や生活費軽減になるのでは。私自身は離婚して単身の40代前半、貯蓄もありますが、高齢者福祉施設に入れるほどたまるとも思えません。食費出す代わりに誰かご飯作ってくれて手作りご飯がみんなで食べられる、みたいなサービス。お金より孤独感の方が怖いです。(兵庫県 40代女性)

 ●雇用主へインセンティブを

 もっと雇用の機会を増やして欲しい。ロスジェネの雇用に対し、雇用主へのインセンティブを付けたり、能力があるのに一定年数を超えても正規になっていない場合にはペナルティーを課したりすると、新たに仕事を探さなくても今働いている職場でのキャリアを継続できる可能性も生まれる。(北海道 40代女性)

 ●ロスジェネ採用あるけど

 企業や自治体が、ポツリポツリと、ロスジェネ対策で採用しだしたが、それはほんの一部の優秀な人材だけ。パフォーマンスにしか捉えられない。このまま、非正規雇用から抜け出せないで、生涯終わってしまうのかなって、最近、よく考えます。ロスジェネ仲間とは、来世に期待だねって、よく話しています。(大阪府 40代女性)

 ◇バブル崩壊の1991年に生まれた私にとって、一般的に会社はいつ崩れてもおかしくないもので、一生同じ会社の正社員でいられる保障はないという感覚がある。

 ではバブル崩壊前後に学生だった人たちは? 小さい頃に好景気を見て、社会に出るときに、就職の困難さにぶつかった。就職氷河期前の先輩の就活話を聞いて、「どこの国の話?」と思ったという。ロスジェネ世代の苦悩を知ると、1年の違いで運命が変わってしまう恐ろしさや悔しさを感じた。

 その後は、リーマン・ショック後の就職状況の悪化やコロナ禍でのリモート就活。いつ就活の時期を迎えるかで、大きく様変わりした。私たちは時代の波にさらされている。その声に耳を傾け続けたい。(寺田実穂子)

 ◇来週14日は「本と出会う」を掲載します。

 ◇アンケート「あなたの読書について教えてください」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で8日14時まで募集しています。

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