(社説)原子力規制委 自らを律し信頼確保を
強い権限を持つ組織は、自らを厳しく律する必要がある。原子力規制委員会のことだ。
規制委は8月、原発のテロ対策施設に関する機密性が高い書類を紛失していたと明らかにした。10月には原発の検査時に携帯が義務づけられている身分証などを職員10人が紛失したと公表。11月2日には、福島県沖の放射線量のモニタリング調査で測定ミスがあったと発表した。
テロ対策書類は「外部流出の可能性は少なく、誤ってシュレッダーで処分した可能性が高い」という。身分証紛失については、原発構内に入る際には運転免許証などで本人確認がされているなどと説明している。
緊張感が欠けてはいまいか。テロのように悪意を持った相手に対処できる体制にあるのか、検証と確認の徹底が不可欠だ。
しかも、規制委は柏崎刈羽原発のテロ対策の不備で東京電力の安全に対する姿勢を厳しく問うている。事業者に侮られずに検査を厳格に進めるためにも、襟を一層正さねばならない。
モニタリング調査では、昨年5月以降、本来なら放射線量が検出されていたはずの試料16件を「不検出」としていた。規制委が誤った基準で分析を依頼したことが原因だが、委託先を変える前までは受注した分析機関側が独自に厳しい基準で調べていたため、問題が起きていなかった。より長年にわたり、誤った情報が流され続けることになりかねない状況だった。
東電福島第一原発からの処理水の放出が計画されるなか、今回明らかになった失態は、放出時のモニタリング調査の信頼性にも影響しかねない。正確性と透明性が国内外から注視されていることを、自覚すべきだ。
気になるのは、テロ対策書類の紛失が昨年度の政策評価報告書で23項目ある要改善事項のひとつとして触れられたことだ。しかも、流出ではなく廃棄としたのは推定にもかかわらず、「機密性の高い文書の誤廃棄について」と報告していた。これで、規制委の原則のひとつである透明性が十分だと言えるだろうか。電力会社の報告漏れや隠蔽(いんぺい)をただす立場であり、範となる積極的な公表が求められる。
規制委は10年前の原発事故の反省から、原子力の安全管理を立て直し、真の安全文化を確立するために設置された。独立性と強い権限を持ち、その判断は電力会社の経営や電力供給に影響を及ぼす。何より国民の安全や、国の存亡にかかわる原発事故の防止に、大きな責任を負っている。
社会からの期待と厳しい目が向けられていることを忘れずに組織を引き締め、厳格な審査や検査を続けてほしい。
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